BCクラシック馬の復活劇

三冠レースが終わり、夏競馬を控えるアメリカ競馬、6月15日は4つの競馬場で合計8鞍のグレード戦が行われました。結果が入ってきたものから順に取り上げていきましょう。

最初はベルモント・パーク競馬場の2鞍、先ずベッド・オー・ロージス・ステークス Bed o’Roses S (GⅢ、3歳上牝、7ハロン)は、fast の馬場に1頭が取り消して僅か5頭立て。G戦初挑戦ながら、4連勝中のダンス・トゥー・ブリストル Dance to Bristol が8対5の1番人気に支持されています。
スタートでウィズグレートプレジャー Withgreatpleasure が出遅れ。2番人気(5対2)のファンタジー・オブ・フライト Fantasy of Flight が逃げましたが、3番手を進んだダンス・オブ・ブリストルが先行2頭を外から捉え、逃げ粘るファンタジー・オブ・フライトに2馬身4分の3差を付けて人気に応えました。1馬身差で2番手を追走したデライトフル・クォリティー Delightful Quarity が3着。
勝馬を管理するオリー・フィギンズ調教師にとっても、これが嬉しいG戦初勝利で、オーナーも初体験のこと。騎乗していたのはザビエル・ペレス騎手。ダンス・トゥー・ブリストルは、前走ピムリコ競馬場の一般ステークスを含めて5連勝。ベルモント競馬場も初体験のコースでした。

ベルモントのもう一鞍は、ヒル・プリンス・ステークス Hill Prince S (芝GⅢ、3歳、8ハロン)。稍重の good の馬場に12頭と多頭数。2対1の1番人気に推されたレッド・ライフル Red Rifle は、トッド・プレッチャー厩舎の新星で2戦2勝の無敗馬。ここが試金石でもあります。
レースはシャイニング・コッパ― Shining Copper の単騎逃げ。これを5~6頭が一団で追い、本命レッド・ライフルは更に後ろのグループ。逃げたシャイニング・コッパ―が一杯となり、替って先頭に立ったプレイ・イット・ラウド Plai It Loud を外から首差で差し切ったのが、好スタートから一旦7番手辺りに下げて好機を窺っていた2番人気(9対2)のナッタキャットバタラーマ Notacatbutallama 。1馬身半差3着にシャモア Chamois が入り、レッド・ライフルも直線で追い上げたものの4着まで。
勝ったナッタキャットバタラーマは、本命馬と同じトッド・プレッチャー師の管理馬で、ジョン・ヴェラスケス騎乗。G戦は初勝利で、勝星も去年の11月以来。2歳時にはベルモントの芝コースで行われたピルグリム・ステークス(GⅢ)で2着の実績もあり、前走ピムリコの一般ステークス3着から状態が上向いてきたとのこと。これで通算成績は10戦4勝2着3回3着1回となりました。

続いてはデラウエア・パーク競馬場のオベアー・ステークス Obeah S (GⅢ、3歳上牝、9ハロン)。fast の馬場、6頭が出走し、G戦は未勝利ながら同じデラウエアで1週前の一般ステークス(ジョン・ルーニー・メモリアル・ステークス)に勝ったブライアンズ・ジェウェル Bryan’s Jewel が1対5と一本被りの1番人気。陣営は、先週の疲れが残っていれば回避と明言していましたから、出てくる以上は勝負と見做されての本命です。
伏兵(22対1)スターズ・ティッジー・フィット Star’s Tizzy Fit が飛ばし、本命ブライアンズ・ジェウェルは後方待機。直線、内を衝いて前が開かない場面もありましたが、間隙を衝いて抜けると、外から来るエンド・ホワイ・ノット And Why Not との競り合いを首差制して優勝。4馬身4分の1差でファイア・アッセイ Fire Assay が3着。
マクリーン・ロバートソン厩舎、アレックス・シントロン騎乗のブライアンズ・ジェウェルは、今期5戦3勝2着1回と堅実な5歳馬。唯一の着外はオークローン・パークでのアップル・ブロッソム・ハンデ(GⅠ)5着で、これがG戦初勝利。

いつもは最後のレポートとなるハリウッド・パーク競馬場ですが、この日はチャーチル・ダウンズが所謂ナイター競馬のため先に結果が入ってきました。第72回となる伝統のGⅠ戦ヴァニティー・ハンデキャップ Vanity H (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。来年以降はどうなるのでしょうか。fast の馬場に6頭立て。GⅡ(バヤコア・ハンデ)勝馬で、前走プリークネス・デイにハリウッドで行われたマージョリー・L・イヴレット・ハンデ(GⅡ)で一本被りの本命に推されながら2着敗退のレディー・オブ・フィフティー Lady of Fifty が8対5で再度の1番人気。
ロイヤル・タイガー Royal Tiger の逃げ、大外6番枠スタートのレディー・オブ・フィフティーは無理せず最後方からの競馬。最もスタートが良かったブービー人気(6対1)のバイラーマ Byrama が控えた3番手から徐々に進出し、先頭で直線に入ると、これを追走してきた2番人気(5対2)モア・チョコレート More Chocolate に3馬身半差を付ける逆転劇です。レディー・オブ・フィフティーも後方から伸びましたが、更に1馬身4分の1差遅れて3着まで。
サイモン・キャラガン厩舎のバイラーマは英国産馬。これまでは芝の短距離馬というイメージでしたが、距離を克服して6連敗に終止符を打ちました。前走チャーチル・ダウンズ競馬場の泥んこ馬場で行われたフマーナ・ディスタッフ(GⅠ)が6着、それに先立つキーンランド競馬場のマディソン・ステークス(GⅠ)でも2着とGⅠには届かず。念願のGⅠ制覇でもあります。今回初コンビを組んだのは、現役復帰した名手ゲーリー・スティーヴンス。先のプリークネス・ステークス制覇に続くGⅠ勝利は流石でしょう。

最後にチャーチル・ダウンズ競馬場から4鞍のG戦、最初はチャンピオンが登場する期待のフレール・ド・リ・ハンデキャップ Fleur de Lis H (GⅡ、3歳上牝、9ハロン)。馬場は fast 、5頭立てながらBCレディーズ・クラシック2連覇などGⅠ4勝の古馬牝馬チャンピオン、ロイヤル・デルタ Royal Delta が出走してきました。去年に続く連覇も掛かり、当然ながら1対5の圧倒的な1番人気。ここは負けられない一戦です。
好スタートから先手を取ったのは、1番枠スタートの3番人気(と言っても5対1)ファニー・プロポジション Funny Proposition 。一時は後続に4馬身のリードを取っての独り旅に持ち込みます。3~4番手でジックリ待機したロイヤル・デルタ、3コーナーから仕掛けて逃げ馬を捉えに掛かりましたが、何故かこの日は瞬発力不発。逃げたファニー・プロポジションとは11ポンドもの負担重量差がありましたが、最後は5馬身差の逃げ切り勝ちを許してしまいました。何とか4分の3馬身差で2着を確保し、3着はシーズ・オール・イン She’s All In という最低人気の馬。
マーク・カッセ厩舎、ダービー・ジョッキーのジョエル・ロザリオが騎乗したファニー・プロポーションは、これがステークス自体初勝利ながらチャーチル・ダウンズでは4戦4勝と、正にコースのスペシャリストでもあります。
敗れたロイヤル・デルタのビル・モット調教師は、敗因はドバイ・ワールド・カップでの凡走以来久々の競馬だったことを挙げ、今回は単に燃えなかっただけだろうとコメント。様子を見て次走での復活に期待する姿勢でした。

次は3歳馬によるマット・ウィン・ステークス Matt Winn S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)。1頭が取り消して10頭立て。2月にリズン・スター・ステークス(GⅡ)で2着惜敗したコード・ウエスト Code West が、前走ピムリコのアローワンス戦を6馬身以上の差で圧勝し、2対1の1番人気。
そのコード・ウエストも好スタートを切りましたが、ハナを主張するデューリー・スクエア Dewry Square を先に行かせて2番手に控えます。これをマークするように3番人気(5対1)のアンキャプチャード Uncaptured が差無く内から追走する展開。直線、逃げ馬が後退してコード・ウエストが先頭に立ちましたが、内からこじ開けるように外に出したアンキャプチャードが並び掛けて2頭の激しい叩き合い。最後は内のコード・ウエストが、外のアンキャプチャードを頭差抑えての優勝。3着は5馬身4分の1の大差が付いて2番人気(5対2)のアブストラクション Abstruction の順。
ボブ・バファート厩舎、ロージー・ナプラヴニク騎乗のコード・ウエストは、ステークス初勝利で通算成績が10戦3勝2着4回3着2回。唯一の着外はルイジアナ・ダービー(GⅡ)での6着で、これによりケンタッキー・ダービー参戦を断念していました。なお、この勝利はバファート師にとってチャーチル・ダウンズでの100勝目という記念すべき1勝でもあります。

そしてメイン・レースに相当するのが、スティーヴン・フォスター・ハンデキャップ Stephen Foster H (GⅠ、3歳上、9ハロン)。今年最初の、勝馬にブリーダーズ・カップに優先出走権が与えられるレースです。今年第32回を迎える伝統の一戦、僅か6頭立てとは言いながら役者が揃いました。去年の覇者ロン・ザ・グリーク Ron the Greek 、GⅠ2勝のフォート・ラーンド Fort Larned 、トラヴァース・ステークス(GⅠ)勝馬ゴールデン・チケット Golden Ticket 等の強豪を抑えて9対5の1番人気に支持されたのは、テイク・チャージ・インディー Take Charge Indy 。去年のフロリダ・デービー(GⅠ)馬で、前走アリシェバ・ステークス(GⅡ)を6馬身差で圧勝した記憶が生々しい本命馬です。
先手を取ったのは、ここ2戦不本意な成績が続いたフォート・ラーンド。本来の先行策に戻っての復活を期します。テイク・チャージ・インディーがこれを追って2番手に付けますが、今日のフォート・ラーンドは止まりません。何と6馬身4分の1差を付けて鮮やかな復活劇です。2着には4番手から伸びたゴールデン・チケットが食い込み、更に4馬身差でロン・ザ・グリークが3着。勝馬を追走したテイク・チャージ・インディーはバテ、最下位6着惨敗に終わりました。
イアン・ウイルケス厩舎、ブライアン・ジョセフ・ヘルナンデス騎乗のフォート・ラーンドは、ご承知のように去年のブリーダーズ・カップ・クラシックの覇者。去年のこのレースは最下位8着から巻き返し、コーンハスカー、GⅠのホイットニーと連勝してジョッキー・クラブ・ゴールド・カップ(GⅠ)が3着。これがBCの逆転劇に繋がりました。しかし今期はいきなりガルフストリーム・パーク・ハンデ(GⅡ)のスタートで落馬、続くオークローン・ハンデ(GⅡ)も5着に終わって人気を落としていましたが、3つ目となるGⅠ制覇。自分の競馬が出来れば強いことは、着差が2002年(GⅠに格上げされた第1回)のストリート・クライ Street Cry に次ぐレース史上第2位の記録であることからも証明できるでしょう。

この日はメインの後にもG戦が組まれていました。最後はリグレット・ステークス Regret S (芝GⅢ、3歳牝、9ハロン)。この日唯一の芝のG戦、firm の馬場に11頭が出走し、前走同じチャーチル・ダウンズの芝コースで行われた一般ステークス(エッジウッド・ステークス)を目の覚めるような追込みで制したキッテンズ・ダンプリングス Kitten’s Dumplings が3対5の圧倒的1番人気。
レースはエデン・プレイリー Eden Prairie が逃げる縦長の展開。大胆にもキッテンズ・ダンプリングスは最後方から二つ目を悠々と追走、直線には馬6頭分の大外を回りましたが、それでも末脚はけた違い。一気に先頭に立つと、プライア Praia に2馬身4分の1差を付ける圧勝でした。更に4分の3馬身差でオスカー・パーティー Oscar Party が3着。
マイケル・メイカー厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のキッテンズ・ダンプリングスは、これがG戦初勝利ながらステークスは3勝目。2月にはフロリダ・オークス(芝GⅡ)で2着した実績もあります。

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