日本フィル・第659回東京定期演奏会
オバマ騒ぎが通過し、未だ厳重警戒の余波が残る中、日フィル東京定期を聴きにサントリーホールに行ってきました。オバマ氏は前回の来日の際、サントリーホールで演説したことを思い出しました。あれも日フィル定期の当日で、何でもメンバーの何人かは「サクラ」として客席に座らされたのだとか、人騒がせな大統領ではあります。
で今回も重なった日フィル定期のプログラムは以下のもの。TPP交渉の真っ只中に相応しく、へヴィーな肉料理2本立ての豪華プログラムでした。
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」全曲
~休憩~
ニールセン/交響曲第4番「不滅」
指揮/山田和樹
コンサートマスター/高木和弘(ゲスト)
フォアシュピーラー/千葉清加
ソロ・チェロ/菊地知也
今回は珍しく日フィルもコンマスはゲスト、長く東京交響楽団のコンマスを務めてきた高木氏でした。また先月までコンマスの一員だった江口氏が退団したのに伴い、今月からアシスタント・コンマスとして千葉清加(ちば・さやか)氏が登場。ファーストの1番プルトは新鮮な光景が展開していました。
日フィルの正指揮者を務める山田は、演奏会の前にプレトークをするのが得意なようで、今回も6時半頃から自身で演奏会の聴き所を披露してくれました。もちろん宣伝も忘れず、先頃正指揮者の契約を2年間延長したことにも触れます。
この所の指揮界の話題を独占している感のある山田、彼に逸早く目を付けた日フィルの先見性も大したものじゃありませんか。延長された契約で予定されているコンサートは、定期登場の他では新たにオーチャード・ホールで開催されるマーラー・チクルスが発表されたばかり。3期に分け、マーラーの交響曲を順番に9曲、カップリングは全て武満徹作品で、ソリストを全員日本人で固めるという凝りようは、山田ならではの選曲だと興味をそそります。
マーラーだけだったらノー・サンキューの私も、武満9作品の連続公演となれば話は別。苦手なオーチャードでも行こうかな、と気持ちは既に揺らいできました。
さて今回のプレトーク、山田の意図の一つはスイス繋がりとのことで、今定期もスイス大使館が後援しています。もちろん山田がスイス・ロマンド管の首席客演指揮者を務めているのに加えて日本・スイス国交樹立150周年親善大使も兼ねている関係もあるでしょう。
山田がビフテキとハンバーグに譬えた2曲のうち、ビフテキ相当のストラヴィンスキー作品はスイスで書かれ、自筆譜もスイスにあるとのこと。アンセルメとの経緯も語っていました。
話し出せば何時までも話題が尽きないようで、事務局からは「マキ」の合図、未だ話足りない素振りの中、プレトークが終了しました。
そして本題。私がヤマカズを聴くのは確か今回が4回目。私が接した最初、劇的な日本フィル初登場を懐かしく思い出します。振り返れば、今回の演奏は私が接した山田和樹ではザ・ベスト。彼自身の急速な成長もありましょうが、私の中でこの指揮者の輪郭が次第に固まってきたような気がします。ズバリ、若手の中ではピカイチの存在でしょう。追い駆けるに足りる器か。
ストラヴィンスキーのバレエは、組曲では何度も聴いているものの、全曲はやはり珍しい部類。2管編成の組曲でなく4管の全曲で勝負する辺り、山田のセンスの良さが光ります。因みに山田にとっても全曲は初挑戦の由。日本フィルの英断にも拍手。
実際のバレエでは「舞台上で」と指定されている3本のトランペットも、2階客席に配置されたバンダとして演奏。しかもバンダが最初に登場する「日の出」(練習番号89)では3本のトランペットをスコア通り客席3か所に振り分け、ステレオ効果を十分に楽しませてくれました。
高名なカスチェイの地獄の踊りでも全曲版オーケストレーションの醍醐味を十分に表現し、これまで聴いたことのないようなパッセージが続々と聴こえてくるスリリングな演奏を繰り出していたのです。
圧巻の火の鳥でしたが、これを上回った感のあったのがニールセン。プレトークでは詳しく触れる時間がありませんでしたが、これも山田にとっては思い入れのある作品だとか。細部まで良く磨き込んだ表現と、確実な構成力に感心頻り。
へヴィー級音楽2本立てに懸念もあったプログラムでしたが、不滅繋がり(火の鳥のカスチェイ王は不死なのだ)の選曲にも納得。改めてプログラミングに拘る若手指揮者の姿勢に好感を抱いた次第です。
もちろん山田は長い指揮者キャリアをスタートしたばかり、未だ未だ試練が待ち構えているでしょう。私が何処まで付き合い続けられるかは判りませんが、どのオーケストラとであれ、今後の動向に注目したいと思います。
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