ワイズ・ダン、驚異の復帰戦
アメリカも夏競馬はそろそろ終幕、サラトガは今週で、デル・マーも来月3日でグランド・フィナーレを迎えます。ということで土曜日は3つの競馬場で夏の名残のG戦が行われました。
先ずはG戦が4鞍組まれているサラトガ競馬場から、いきなりバーナード・バルーク・ハンデキャップ Bernard Baruch H (芝GⅡ、3歳上、8.5ハロン)。firm の馬場に2頭が取り消して8頭立て。何と言っても2年連続で年度代表馬に選ばれたワイズ・ダン Wise Dan の復帰戦が大注目です。
5月にチャーチル・ダウンズでターフ・クラシック(芝GⅠ)に勝ったあと疝痛を発症、16日に手術を終えて長期休養に入っていました。BCマイル3連覇を目指す同馬は、何としてもサラトガで一戦しておきたいことから、最終週のここを復帰戦に選んできたのです。しかし休み明けに加えて実績から127ポンドを背負わねばらなず、この負担重量は明らかに死角。ということは他馬にとってチャンピオンを破る絶好のチャンスということ。それにも拘わらず、ワイズ・ダンは4対5の1番人気に支持されていました。
更にワイズ・ダン、ゲート・インに際して騎手(ジョン・ヴェラスケス)を振り落すアクシデントがあり、ファンの不安が増々募ります。先手を取ったのは4番人気(7対1)のファイヴ・アイアン Five Iron 、ワイズ・ダンは4番手でこれを追走します。直線、馬場の中央を通って本命馬が先頭に並び掛けますが、ここで127ポンドが重く背中に掛かり始めます。それでも抜け出したワイズ・ダンに襲い掛かってきたのは、ブービー人気(29対1)のオプティマイザー Optimizer 。2頭の差がジリジリ詰まる中ゴール板を通過し、写真判定の結果ワイズ・ダンがオプティマイザーの追い上げをハナ差凌いでいました。1馬身4分の1差で逃げたファイヴ・アイアンが3着。
チャールズ・ロプレスティ厩舎のワイズ・ダン、今期は4月のメイカーズ・46マイル(芝GⅠ)、ターフ・クラシックと3戦無敗。このあと10月のキーンランドでシャドウェル・ターフ・マイル(芝GⅠ)を叩いてからBCに向かうことになるでしょう。レース後の無事を祈るばかり。
続いてプライオレス・ステークス Prioress S (GⅡ、3歳牝、6ハロン)。2001年からGⅠにランクされてきましたが、今年からGⅡに降格。それまで7月末に行われていましたが、降格を機に一か月ずれての施行となりました。fast の馬場に8頭が出走し、今月初めに前走サラトガのテスト・ステークス(GⅠ)で2着したミス・ビヘイヴィアー Miss Behaviour が2対1の1番人気。
しかし、レースはスタートから先頭に立った3番人気(5対1)ストーンスタティック Stonestatick がムチを使うことなく圧巻の逃げ切り勝ち。2番手を追走したミス・ビヘイヴィアーに8馬身半の大差を付けていました。実況アナが“Stone cold fantasic !”と叫んでいたのは、アメリカ流駄洒落でしょうか。3着には首差で6番人気(7対1)のサザン・ハネー Southern Honey 。
ケリー・ブリーン厩舎、パコ・ロペス騎乗のストーンスタティックは、2歳時にチャーチル・ダウンズでポカホンタス・ステークス(GⅡ)2着、ゴールデン・ロッド・ステークス(GⅡ)も2着の実績。今期は1月にガルフストリームの一般ステークスで3着のあと長期休養に入り、前走7月末にモンマス・パークのアローワンス戦で圧勝(6馬身)して復調していました。父ミッゼン・マスト Mizzen Mast が先週死亡したことでもあり、ここは弔い合戦となった形。
土曜日のサラトガはGⅠ戦が2鞍ですが、その一つがフォアゴ・ステークス Forego S (GⅠ、3歳上、7ハロン)。勝馬にはBCスプリントへの優先出走権が与えられます。1頭取り消しがあり9頭立て。このレースの前哨戦となるアルフレッド・G・ヴァンダービルト・ハンデ(GⅠ)を制したパレス Palace が出走してきましたが、その前に7月のベルモント・スプリント(GⅢ)でそのパレスを6馬身千切ったクリアリー・ナウ Clearly Now が4対5の1番人気。パレスは4対1の2番人気でした。
レースは7番人気(19対1)りジー・ブロス Zee Bros が逃げ、クリアリー・ナウは6番手追走。前半3番手、一旦4番手に下げたパレスが直線では思い切り内ラチ沿いを衝き、一気に前を纏めて交わすと、ブービー人気(20対1)の伏兵ビック・ビジネス Big Business に3馬身半差を付けてGⅠ戦2連勝を達成しました。首差で4番人気(10対1)のヴァイジャック Vyjack が3着に入り、クリアリー・ナウは精彩なく8着惨敗。
リンダ・ライス厩舎、コーネリオ・ヴェラスケス騎乗のパレスは、去年秋のフォール・ハイウエイト・ハンデ(GⅢ)でG戦初勝利、今期はGⅠ連覇に先立って6月のベルモントでトゥルー・ノース・ハンデ(GⅡ)にも勝っていました。目標とするBCスプリントにも弾みが付いた印象です。
サラトガの最後はウッドワード・ステークス Woodward S (GⅠ、3歳上、9ハロン)。BC以前には秋のビッグレースの一つでしたが、現在はGⅠこそ維持しているものの、ややレヴェルが落ちている感は否めません。今年は1頭が取り消して8頭立て。前走8月2日のホイットニー・ステークス(GⅠ)の1・2着馬の再戦の様相を呈し、勝ったモレノ Moareno が5対2の1番人気、同じオッズの2着馬イッツマイラッキーデイ Itsmyluckyday が僅かの差で続きます。
レースは終始一貫2強のマッチレース。モレノがハナを叩いて逃げ切りを図りましたが、これをピタリと2番手でマークしたイッツマイラッキーデイが楽には逃がしません。直線は更に激しい2頭の叩き合いとなり、4回から5回は両馬が接触する場面も。結局はイッツマイラッキーデイがモレノに半馬身先着しましたが、当然ながら2着アルヴァラードからの異議申し立てと審議となりましたが、入線通りで確定しました。1馬身半差でブービー人気(24対1)のプレイヤー・フォー・リリーフ Prayer for Relief が3着。
エドワード・プレーサ厩舎、パコ・ロペス騎乗のイッツマイラッキーデイは、これがGⅠ初制覇。去年3歳時にはホーリー・ブル・ステークス(GⅢ)に勝ち、フロリダ・ダービーとプリークネス・ステークスで2着になりましたが、シーズン後半は骨盤骨折に見舞われて休養を余儀なくされていました。今期は7月にサルヴァトーレ・マイル(GⅢ)に勝って復帰、今回はブリンカーを初めて装着した効果もあり、前走ホイットニーの惜敗をここで雪辱したことになります。
続いてアーリントン・パーク競馬場。ポリ・トラック・コースで行われるワシントン・パーク・ハンデキャップ Washington Park H (GⅢ、3歳上、9ハロン)は6頭立て。2011年のこのレースの勝馬で、以後一昨年2着、去年は4着と4年連続で参戦しているミスター・マルティ・グラ Mister Marti Gras が7対10の1番人気。
レースは3番人気(3対1)のアヴェンザーリ Avanzare の逃げで始まり、ミスター・マルティ・グラは最後方から末脚に賭ける作戦。直線、アヴァンザリが懸命に粘るところに後方2番手の最低人気(24対1)ハッタン Hattan が追い込み、更にミスター・マルティ・グラも末脚を伸ばしましたが、ゴール板ギリギリまで粘ったアヴァンザリがハッタンを頭差抑えての逃げ切り勝ち。ミスター・マルティ・グラは首差3着と届きませんでした。
トーマス・プロクター厩舎、クリストファー・エミー騎乗のアヴァンザリは、今回が初のポリトラック体験。それまでの8戦は全て芝でのもので、前走アーリントン・ハンデ(芝GⅢ)4着が唯一3着以下に落ちたレースでした。通算で9戦5勝2着3回とし、ステークスは初勝利となる4歳せん馬です。なお、エミー騎手はこれが区切りとなる3500勝達成だった由。
最後はデル・マー競馬場からデル・マー・デビュタント・ステークス Del Mar Debutante S (GⅠ、2歳牝、7ハロン)。開催の最後は2歳GⅠ戦が総決算で、土曜日は牝馬のデビュタント、3日のグランド・フィナーレで牡馬のフューチュリティーというスケジュールです。タペタ・コースに9頭立て。このレースのトライアルとなるソレント・ステークス(GⅡ)に勝った洋行帰りのサンセット・グロウ Sunset Glow が4対5の1番人気。
トライアルは逃げ切ったサンセット・グロウでしたが、今回は敢えて別のレースを試すという陣営の思惑もあり、逃げたセデューリ Seduire の4~5番手を追走。第4コーナーでは内で粘るセデューリと、外から進出する2番人気(3対1)のハー・エミネンシー Her Emmynency の間を抜ける根性を発揮、最後はハー・エミネンシーを首差抑えて人気に応えました。4分の3馬身差で5番人気(14対1)のコンケスト・エクリプス Conquest Eclipse が3着。
ウェスリー・ワード厩舎、ヴィクター・エスピノザ騎乗のサンセット・グロウは、これでG戦2連勝でGⅠ初制覇。ロイヤル・アスコット遠征も含め、詳しいことは8月7日の日記で紹介済みです。ワード調教師はこのレース初制覇、エスピノザ騎手はデビュタント4勝目。
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