読売日響・第543回定期演奏会
すっかりクリスマス用に装飾されたサントリーホールで読響の12月定期を聴いてきました。先月は別のコンサートと重なったため池袋で聴いた同オケ、やはりサントリーホールでなくちゃね、と実感した次第。
読響は来年3月にヨーロッパ公演が予定されており、12月のプログラムは首席カンブルランの下、ヨーロッパに持って行くプログラムの一つ。力の入れようが窺われる以下の演目。
このプロは3月7日にユトレヒト、8日にはブリュッセルでも演奏されますから、カンブルランが最も得意とするメシアン、その大作で読響との集大成を問おうという意図でしょうか。
酒井健治/ブルーコンチェルト(読響委嘱作品・世界初演)
~休憩~
メシアン/トゥーランガリラ交響曲
指揮/シルヴァン・カンブルラン
ピアノ/アンジェラ・ヒューイット
オンド・マルトノ/シンシア・ミラー
コンサートマスター/小森谷巧
フォアシュピーラー/長原幸太
ところで、私はその日聴いたコンサートの感想を翌日の朝にアップするのが基本的なパターンです。今朝も起きて先ずナクソスNMLの新着アルバムをチェックしたのですが、何とEMIからメシアンのアルバムが大量に配信開始。昔良く聴いていたプレヴィン指揮やラトルが振ったトゥーランガリラも楽しめます。
それにしても何とタイミングの良いことか、思わずプレヴィン盤を聴いてしまいました(と言っても途中までですけど)。
それは余談、カンブルランはそもそもトゥーランガリラで読響にデビューし、その名演が切っ掛けで首席指揮者に抜擢されたマエストロ。私もその時に聴いており、始めたばかりのブログに感想も書いています。チョッと恥ずかしい内容ですが、今回とほぼ同じ印象で当たらずとも遠からず、かな。
ホールに入ると舞台上は楽器が所狭しと並べられ、日本テレビが収録するためのカメラ類もズラリ。改めて“カネの掛かる演奏会だなぁ”と実感させられます。ふと下手を見ると、メシアンで使うピアノが出番を待っています。でも、いつものスタインウェイとは容姿が違う楽器。
早速駆け寄って確認すると、これが何とイタリアの名器ファッツィオーリ Fazioli ではないか。サントリーホールはもちろん、このピアノを常設しているホールは東京には無いはずで、この演奏会のために態々持ち込んだのでしょう。へぇ~、ヒューイットってファツィオーリを弾くのかぁ~、と増々期待は高まります。
で、オンド・マルトノは? と見ると、こちらは未だ上手にバラバラに置かれている状態で、前半が終わってから組み立てるのでしょうか。こりゃ休憩時間が楽しみだぞ、と思いつつ定席へ。
後で調べたところによると、ファツィオーリの代理店は田町にあり、ヒューイットはここに通ってリハーサルを続けていた由。恐らくこの日のピアノもここから搬送したのでしょう。
代理店のホームページを見ていると、トゥーランガリラで使用することも明記されており、何とヒューイットの練習風景もビデオ・クリップに。こんな情報があったのなら、何で読響は事前に宣伝しないのかッ、と思いましたね。オケは素晴らしいんだけど、どうもお客さんへのサービスが不足してます。もっと「おもてなし」の心を学ばなければいけませんな。
http://fazioli.co.jp/diary/2014/12/post-56.html
前半に演奏された新作は、ヨーロッパで再演されること、トゥーランガリラの前に紹介されることを前提として作曲されたそうで、この辺りはプログラムにも掲載されていましたし、読響のホームページで読むこともできます。
作曲家の酒井健治は、私は初めて聴く人で、1977年の大阪生まれ。京都で学び、フランスに留学、初期にはメシアンからも大きな影響を受けたようで、今回の委嘱はうってつけだったのでしょう。
作品は17分ほど。トゥーランガリラと同じように基本は3管の大編成で、25種類もの打楽器を6人で演奏するもの。ティンパニを使わないのもトゥーランガリラを意識してのことでしょう。
一度聴いただけで内容を全て聴き取ることは困難ですが、自身が書かれた曲目解説によると、トゥーランガリラ交響曲のモチーフ、自身の過去の作品、ベートーヴェンの第9に登場する完全5度などもコラージュ風に用いられ、終結部では個人的な弔意を表す12回の鐘で締め括られるというもの。読響の実力を発揮すべく、管弦楽のための協奏曲を意識したアンサンブルも鏤められていました。
メシアンのモチーフはあれかな? と個人的には想像しましたが、楽譜を見なければ判らないこと。作品の規模からしても酒井自身の集大成になる大作で、私はメシアン的というより、何処か日本風の潤いが感じられる佳曲と聴きました。こういうものこそCDなどで繰り返し聴くチャンスを作って欲しいと思います。
幸いにしてこの演奏会は1月にオン・エアされるとのこと。但し酒井作品も放送されるのかについては明記されていませんでしたが・・・。
後半のトゥーランガリラ。今回の定期でカンブルランとしては首席指揮者としての仕事を一巡したことにもなりますね。前回とは2人のソリストも、立場も違うメシアンです。
冒頭に書いたように、休憩の間の楽器セッティングは大忙し。普段はホワイエでワインなどを呑んでいると思われる紳士淑女たちも、この様子を取り囲むように見学して興味津々の様子。
オンド・マルトノの設置は奏者のミラー女史が中心となって進められ、周りからは“あの人が弾くんですか?”と素朴な質問も。マエストロサロンで原田節氏から話を聞いていたこともあり、私も若干のアドバイスをしたりして会員同士でも話に花が咲きました。
私がより興味があったのはファッツィオーリの方。マルトノの設置を横目で見ながら、ピアノを丁寧にセッティングしている若き外国人にも目が行きます。
ピアノの準備が終わった所で、係員がピアノの譜面台にパソコンのディスプレイのような装置を設置、更には足元にもマウスの様な仕掛けを置きます。現物を間近で見た訳ではありませんが、恐らく譜面をPCに落とし、脚でクリックしながら改ページして行く装置でしょう。去年ボローメオQがベートーヴェン全曲演奏で紹介したのと良く似たハイテク技術と思われます。
ハイテクとローテクを総動員してのトゥーランガリラ、思わず“面白そう”と口走ってしまいましたね。
実際、実に面白いトゥーランガリラでした。カンブルランも汗びっしょりで、最後は放心したような様子も。
前回も書きましたが、全10楽章、演奏時間85分の大作ですが、仕掛けは大きく分けて3つか4つの柱に分類できます。それを繰り返していく大規模なロンド=ソナタとでも言いましょうか。ポイントのテーマや楽器を把握しておけば、1時間半も決して怖くない。
こんな作品ですから、聴く度に新たな発見もあります。特に今回は第4楽章「愛の歌」第2を新鮮に聴きました。丁度中ごろ、チェレスタとピアノのトレモロに乗って主にヴァイオリンが奏するメロディーは、恐らく5音音階に基づいているのでしょうか、日本民謡の様に聴こえてきました。帰ってからスコアで探したほど(練習番7)。
そしてこの楽章の終結部。演奏、ピアノの音色が良かったこともあるでしょうが、何とも美しいピアノの上向音階。聴き様によってはポピュラー・ソングのエンディングみたいです。もしトゥーランガリラから一つの楽章だけ選べと言われれば、私は躊躇うことなく第4楽章を挙げましょう。
私がこれをナマで体験するのは少なくとも4度目、もっとあるかも知れませんが、今回はオンド・マルトノの音量がかなり大きめに設定されており、丁度スピーカーが正面に位置している私の席では音が大き過ぎるように感じました。最後には耳が痛くなるほど。
お蔭でマルトノのパートが全て聴き取れるくらいの体験でしたが、ピアノと重なる個所では邪魔になると思うほどの音量で、ヨーロッパではもう少しバランスを配慮した方が良いかも。
いずれにしても定期1回のみとは如何にも勿体無く思いましたが、池袋では荷が重いでしょう。第9を7回も演奏するなら、場所を選んで日本でももう一度は演奏機会を作って欲しいコンサートでした。
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