２０１５クラシック馬のプロフィール(５)
ヨーロッパ３か国のクラシック・レース勝馬の血統を詳しく見ていくシリーズ、今回は愛１０００ギニーを取り上げます。愛２０００ギニーを制したグレンイーグルス Gleneagles は英２０００ギニーの勝馬でもありますから、ここでは繰り返しません。
さてアイルランドの１０００ギニーを制したのは、ジム・ボルジャー調教師の自家生産馬であるプレイスコック Pleascach 。ボルジャー師は馬名にケルト語、ゲール語などを用いることが多く、この馬も最近まで読み方が判りませんでした。プレイスコック、プレイシュカックなどカタカナにするのは無理がありますが、意味は「爆発的な」ということはレース・レポートでも紹介した通り。
ということで、プレイスコックは父テオフィロ Teofilo 、母トイルニーチ Toirneach 、母の父サンダー・ガルチ Thunder Gulch という血統。母の名前も恐らくケルト語で、正しくは何と読むか不明。案外「トーニーク」などと呼ばれるのかも知れません。
牝系に入る前にテオフィロについて短く触れると、プレイスコックはテオフィロの４年目の産駒で、英愛仏クラシックでは２０１３年に愛ダービーを制したトレーディング・レザー Trading Leather に続く２頭目となります。他にその年の愛セントレジャーに勝ったヴォルーズ・ド・クール Voleuse de Coeurs もいますが、愛セントレジャーは古馬にも開放されているので、厳密にはクラシック・レースではありません。
テオフィロ自身もボルジャー師の自家生産馬で、２歳時に５戦５勝。翌年の三冠馬と期待されたガリレオ産駒でしたが、脚部難に悩まされ続け、３歳シーズンはクラシック・レースどころか一戦も出来ずに種牡馬入りしました。テオフィロに付いてはトレーディング・レザーのプロフィールでも詳しく扱いました(２０１３年クラシック馬のプロフィール(１１))ので、そちらも合わせてお読みください。
さて牝系。母 Toirneach (２００５年 黒鹿毛)もプレイスコック同様ジム・ボルジャー師が調教した馬で、２歳から４歳まで走って１２戦２勝した馬。もう少し詳しく見ると、２歳時は２戦１勝２着１回、２戦目にカラー競馬場の７ハロンで初勝利を挙げました。
３歳時には一応クラシックを目指し、レパーズタウンのデリンスタウン・スタッド・１０００ギニー・トライアル(ＧⅢ)に出走して９頭立ての４着、続くカラーのガリニュール・ステークス(ＧⅢ)も９頭立ての６着に終わり、クラシックは断念します。３歳の３戦目にネイヴァン競馬場の一般戦１０ハロンで２勝目を挙げましたが、勝利はこれが最後。その後はハンデ戦を中心に４戦して勝てず、３歳時は７戦１勝。
４歳になった Toirneach は５月から７月まで１マイルを中心に３戦しましたが入着することもなく、そのまま繁殖に上がります。現在までの所、その産駒は以下の通り。
２０１１年 イオンサイ・ヌア Ionsai Nua 鹿毛 牝 父ニュー・アプローチ New Approach 未出走 この馬も恐らくボルジャー師が管理したと思われ、馬名も読み方が不明ですが、現時点では実戦を経験していません。
２０１２年 プレイスコック
２０１３年 ブロンタイド Brontide 鹿毛 牡 父ヴォーカライズド Vocalised 未出走
即ち、プレイスコックは母の唯一の出走馬で、もちろん最初の勝馬となります。
次に２代母はワンダリング・パイン Wandering Pine (１９９７年 鹿毛 父カントリー・パイン Country Pine)。血統から予想できるように、ここからはアメリカの牝系に移ります。彼女の競走馬としての詳細は不明ですが、１２戦１勝２着１回３着２回という実績だそうです。
彼女の産駒も生年順に列記しておくと、
２００３年 フロストバーグ Frostburg 鹿毛 せん 父ガルチ Gulch アメリカで３０戦４勝
２００４年 パラッツォ・バルディ Palazzo Bardi 鹿毛 牝 父キングズ・ベスト Kings Best アイルランドで１３戦未勝利
２００５年 Toirneach
２００６年 オー・マイティー・ダラー Oh Mighty Dollar 鹿毛 せん 父マリブー・ムーン Malibu Moon アメリカで２１戦３勝
２００９年 ワンダリング・ムーン Wandering Moon 黒鹿毛 牝 父マリブー・ムーン アメリカで１戦未勝利
２０１０年 カポモラーノ Capomorano 鹿毛 牡 父ブルーグラス・キャット Bluegrass Cat パナマで２１戦１２勝 ４歳時にラフィット・ピンカイ賞(パナマのＧⅡ)優勝 パナマの競馬界には詳しくないので、このステークスがどのような位置にあるのかは判りません 他にパナマのＧⅠ戦で入着あり
２０１１年 ドリーミング・オブ・フローリ Dreaming of Flori 黒鹿毛 牝 父バーンスタイン Bernstein アメリカで１戦１勝 現役
以上、パナマでの重賞勝馬は出ていますが、現在までの所ではワールド・クラスの活躍馬は見当たりません。
３代母はワンダリング・レース Wandering Lace (１９８４年 鹿毛 父プライヴェイト・アカウント Private Account)と言い、競走馬としてはアメリカで４戦１勝しただけ。しかし繁殖に上がって産んだ最初の娘、ドリナ Drina (１９８８年 鹿毛 父リーガル・アンド・ロイヤル Regal and Royal)が競走馬としても母としても大活躍することになります。
ドリナは６歳までに４４戦して１１勝、一般ステークスですがカルダー競馬場の９ハロン戦、ヴィズカヤ・ハンデに勝ってステークス・ウイナーとなります。そして２番仔に当たるスペイン Spain (１９９７年 鹿毛 牝 父サンダー・ガルチ Thunder Gulch)が３５戦９勝。ＢＣディスタッフとラ・ブレア・ステークスとＧⅠ戦に２勝し、ＧⅡではモンマス・オークス、ラ・カニャーダ・ステークス、ルイヴィル・カップ、フレール・ド・リ・ハンデと４勝。他にＧⅢのターフウェイ・カップにも勝ってＧ戦だけで７勝も挙げる女傑として名を残すことになりました。
他にドリナの産駒ではサンセット・ハンデ(ＧⅡ)とサン・ルイ・オビスポ・ハンデ(ＧⅡ)に勝ったプエルト・バナス Puerto Banus (１９９９年 栗毛 牡 父シュープレーモ Supremo)、ゴールデン・ゲート・フィールズ・ハンデ(ＧⅢ)のファンタスティック・スペイン Fantastic Spain (２０００年 鹿毛 牡 父ファンタスティック・フェロー Fantastic Fellow)がブラックタイプ勝馬になりました。
スペインはサンダー・ガルチ産駒と言うことで、プレスコックの母 Toirneach と極めて近い関係にある血統と言えるでしょう。
更に先を急ぐと、４代母シュージンスキー Shujinsky (１９８０年 栗毛 父ニジンスキー Nijinsky)、５代母シューフルール Shufleur (１９７４年 鹿毛 父トム・ロルフ Tom Rolfe)、６代母シスター・シュー Sister Shu (１９６９年 栗毛 父ナシュア Nashua)を経て名牝レヴィー Levee に遡ります。
レヴィーはコーチング・クラブ・アメリカン・オークス、モンマス・オークス、ベルデイム・ステークスなど現在はＧⅠに格付けされているレースを次々に勝ち、何と言っても娘シュヴィー Shuvee の大活躍でアメリカならずとも、世界の競馬ファンが忘れてはならない偉大な牝系を築き上げてきました。
ここからの物語は、２０１１年の桜花賞馬マルセリーナのプロフィールでも取り上げましたから、そちらも参考に。
http://merrywillow.com/?p=2064
マルセリーナ以外の系統に付いて短く纏めると、レヴィーにはシュヴィー以外に４頭の娘がありました。即ち
①ナリー Nalee (１９６０年生まれ)
②ベル・フーリー Belle Foulee (１９６４年生まれ)
③シスター・シュー
④レイズ・ザ・レヴィー Raise the Levee (１９７１年生まれ)
この内②ベル・フーリーがマルセリーナの７代母となり、③シスター・シューがプレイスコックの６代母と、夫々の国の１０００ギニー馬を輩出します。
そして①ナリーは、直仔メネヴァル Meneval がアイルランド・セントレジャーに勝ったほか、フィリーズ・マイルのシルク・スリッパーズ Silk Slippers 、ＢＣレディーズ・クラシックのサカフイスタ Sacahuista 、フリゼット・ステークスのレイジング・フィーヴァー Raging Fever 、クラーク・ハンデのエー・ピー・アロー A.P.Arrow 、デルマー・オークスのサマー・ソワレー Summer Soiree の祖先となります。
また④レイズ・ザ・レヴィーからは、３代目にガネー賞に勝ったフェア・ミックス Fair Mix が出るという具合。
以上プレイスコックの牝系は、スペインやシュヴィーに代表されるように、一度能力のある馬、特に牝馬が出ると牡馬顔負けの名馬になるというＤＮＡがあるようです。プレイスコックのアイルランド・ダービー挑戦は、その意味でも興味深いものと言えるでしょう。
ファミリー・ナンバーは９－ｆ。トクソピライト・メア Toxopilite Mare を基礎とする牝系です。
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