BCに向けて2鞍のGⅠ戦

三冠馬が誕生した翌週のアメリカ、休む間もなく競馬人たちの関心は秋のブリーダーズ・カップに向かいます。昨日はいつも通り三つの競馬場でGⅠ2鞍を含む全部で7鞍のG戦が行われました。この内3鞍がBCの対象レース。

先ずはベルモント・パーク競馬場のポーカー・ハンデキャップ Poker H (芝GⅢ、4歳上、8ハロン)から。去年は5月26日メモリアル・デイのプログラムでしたが、今年は3週間ほど後ろにずれての開催、 firm の芝に1頭が取り消して9頭が出走してきました。アメリカ・デビューとなるチリの2冠馬(ギニーとダービー)イル・カンピオーネ Il Campione が9対5の1番人気。
レースは6番人気(17対1)のキング・クリーサ King Kreesa が飛び出し、2馬身ほどのリードを保ったまま直線。前半4~5番手から馬4頭分の外を回って本命馬が追い上げましたが、キング・クリーサの逃げ足は衰えず、6番手から追い込む5番人気(8対1)でこれが芝デビューとなるヴァイジャック Vyjack を4分の3馬身抑えての逃げ切り勝ち。イル・カンピオーネは最後で頭差交わされて3着に終わりました。
デヴィッド・ドンク厩舎、ホセ・オルティス騎乗のキング・クリーサは6歳せん馬で、2013年に続いてポーカー・ハンデ2度目の勝利。レース史上3頭目の快挙となります。勝鞍は去年夏サラトガの一般ステークス(ウエスト・ポイント・ステークス)以来で、前走は一般ステークス(キングストン・ステークス)3着でした。

一方、サンタ・アニタ競馬場はG戦2鞍でしたが、先にGⅠのシューメーカー・マイル・ステークス Shoemaker Mile S (芝GⅠ、3歳上、8ハロン)が行われました。これも勝馬にはブリーダーズ・カップ・ターフ・マイルへの優先出走権が与えられるレースで、5頭立て。去年8月のデル・マー・ダービー(芝GⅡ)勝馬で、前走4月にもサンタ・アニタで芝のアローワンス戦に勝って芝コースで無敗の3連勝中のミッドナイト・ストーム Midnight Storm がイーヴンの1番人気。
レースは最低人気(26対1)のアルゼンチン産馬ウイニング・プライズ Winning Prize が逃げ、これを本命馬が差無く追走。間が空いて2番人気(3対2)のブラジル産馬バル・ア・バリ Bal a Bali と3番人気(7対2)のシーク・アゲイン Seek Again が続き、更に間隔が開いて4番人気(13対1)のタルコ Talco がポツンと後方から進む展開。先頭から最後までは一時10馬身歩と背の差が開いていました。しかしインコースを通って前との差を詰めたタルコ、直線に向いて先行2頭の外に出すと、先行争いから抜けたミッドナイト・ストームを半馬身抜き去って鮮やかな差し切り勝ちを決めました。更に1馬身4分の3差でシーク・アゲインが3着。
ジョン・サドラー厩舎、ラファエル・ベハラノ騎乗のタルコは、これまでG戦で好勝負しながら中々勝てなかった4歳馬。前走アメリカン・ステークス(芝GⅡ)では、最後でバル・ア・バリ(この日は最下位5着)に交わされて2着惜敗でした。ハリウッド・ダービーでも、ミッドナイト・ストームが勝ったデル・マー・ダービーでも3着でしたが、ここで積年の雪辱を果たし、念願のG戦初勝利を見事GⅠで果たしています。母トライルコ Trylco は、2004年の愛2000ギニー馬バチェラー・デューク Bachelor Duke の半妹という血統。

サンタ・アニタのもう一鞍はアドレーション・ステークス Adoration S (GⅢ、3歳上牝、8.5ハロン)。去年は5月18日に行われたGⅡ戦でしたが、今年からGⅢに降格されての開催。しかしメンバーはGⅠ馬2頭の対決と豪華で、fast の馬場に1頭が取り消して6頭立てながら見応えのあるレースとなりました。前走ヴァニティー・ステークスを直前に発熱のために取り消したビホールダー Beholder が1対5の断然1番人気。その時のライヴァルだったウォーレンズ・ヴェニーダ Warren’s Veneda が7対2の2番人気、ヴァニティーではビホールダーの突然の取り消しによってペースがスローになり、3着に敗れて波乱になったことは既に報じた通り。
4番人気(18対1)のマイ・モネ My Monet が逃げ、ビホールダーがピタリと2番手でマーク。今回はジックリ追い込みに徹することが出来るウォーレンズ・ヴェニーダは4番手から。第3コーナーで早くも逃げ馬を捉えたビホールダー、ライヴァルが来るのを待っての追い出し、休み明けにも拘わらず結局はウォーレンズ・ヴェニーダに1馬身4分の1差を付ける貫録勝ち。3着に粘ったマイ・モネは2頭から4馬身4分の1差離されていました。
リチャード・マンデラ厩舎、ゲーリー・スティーヴンス騎乗のビホールダーは、ヴァニティーを欠場したためこれが今期初戦、去年9月27日のゼニヤッタ・ステークス(GⅠ)以来の実戦となりました。今年5歳のビホールダー、GⅠは既にBCでジュヴェナイル・フィリーズとディスタッフに2勝、ゼニヤッタ・ステークス2連覇にサンタ・アニタ・オークスなど6勝。このあとは8月1日にデル・マーでジョー・ヒルシュ(GⅠ)を使い、ゼニヤッタからBCディスタッフと王道を歩む計画です。

今日のレポートは、薄暮開催のチャーチル・ダウンズ競馬場が最終便。レース順に取り上げていくと、最初はリグレット・ステークス Regret S (芝GⅢ、3歳牝、9ハロン)。パドックでは出走馬の最後に三冠馬アメリカン・フェイロー America Pharoah もパレードに参加するというファン・サーヴィスに沸いたチャーチル・ダウンズ、firm の馬場に1頭が取り消して6頭立て。ポリトラック・コースのバーボンネット・オークス(GⅢ)の勝馬ドント・リーヴ・ミー Don’t Leave Me が3対2の1番人気。
先ず5番人気(9対1)のユーザワンナイラヴ Urtheoneeyelove が逃げましたが、向正面に入った所で2番人気(2対1)のレディー・ズズ Lady Zuzu が替って先頭。直線では安全圏に持ち込んで逃げ切るかと見えましたが、ゴール直前で脚が止まり、前半最後方で待機していた4番人気(9対1)のプラードズ・スイート・ライド Prado’s Sweet Ride が外から急襲、レディー・ズズを頭差捉えての差し切り勝ちです。1馬身4分の1差で3番人気(3対1)のリターン・トゥー・グレイス Return to Grace が3着に入り、ドント・リーヴ・ミーは後方2番手から追い上げるも及ばず4着に終わりました。
クリス・ブロック厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のプラードズ・スイート・ライドは、これがステークス初勝利。前走インディアナでの一般ステークス(インディー・スター・ステークス)がステークス・デビューでしたが、6着に終わっていました。その前はアローワンス戦を含めて3連勝しており、通算成績は6戦4勝となります。

続いてフレール・ド・リ・ハンデキャップ Fleur de Lis H (GⅡ、3歳上牝、9ハロン)。勝馬にはブリーダーズ・カップ・ディスタッフへの優先出走権が与えられる一戦で、fast の馬場に9頭が出走。前走ラ・トロワイエンヌ・ステークス(GⅠ)で1番人気になりながら、マイ・スイート・アディクション My Sweet Addiction に4分の3馬身差の2着に惜敗したシーア・ドラマ Sheer Drama が8対5の1番人気。勝ったマイ・スイート・アディクションが7対2の2番人気で続きます。
レースは5番人気(9対1)のヤヒルワ Yahilwa が逃げ、シーア・ドラマは4番手に付けたマイ・スイート・アディクションをマークするように5番手追走。早々とマイ・スイート・アディクションが後退し、2番手に付けていたブービー人気(32対1)の伏兵フリヴォラス Frivolous が前を捉えて先頭で直線。シーア・ドラマも懸命にフリヴォラスを追いましたが、最後は1馬身半差及ばず又しても2着に終わりました。頭差で後方2番手から追い込んだ4番人気(4対1)のティズ・ウインディー Tiz Windy が3着。
ヴィクトリア・オリヴァー厩舎、ジョン・ケントン・コート騎乗の5歳馬フリヴォラスは去年のこのレースは4着でしたが、前走ラ・トロワイエンヌでは9着に大敗しており、大幅なリバウンドとなりました。3歳時にはアーリントン・オークス(GⅢ)で2着、去年秋にはチャーチル・ダウンズの同じ距離でフォールズ・シティー・ハンデ(GⅡ)に勝っており、G戦は2勝目となります。

この日三つ目のG戦は、メインに当たるスティーヴン・フォスター・ハンデキャップ Stephen Foster H (GⅠ、3歳上、9ハロン)。勝馬にはBCクラシックの優先出走権が付与されるとあって、GⅠ馬3頭を含む7頭が出走してきました。9対5の1番人気に支持されたのは、GⅠ馬の1頭でドバイ・ワールド・カップで3着して来たリー Lea 。去年のドン・ハンデ(GⅠ)勝馬で、今年は2着からドバイに遠征していました。
レースはブービー人気(16対1)のパガノール Paganol がスローに落して逃げましたが、抑え気味に2番手を進んでいた4番人気(9対2)のノーブル・バード Noble Bird がこれ以上は無理と言わんばかりに第3コーナーで先頭に立つと、相手はこれと判断したリーも同時にスパートして2番手で直線。しかしノーブル・バードは渋太く粘り、リーも懸命に差を縮めたものの首差及ばず、伏兵に脚を攫われた印象です。5馬身半の大差が付いて2番人気(3対1)で去年のクラーク・ハンデ(GⅠ)勝馬ホッパチュニティー Hoppertunity が3着、もう1頭のGⅠ馬マジェスティック・ハーバー Majestic Harbor が4着でした。
マーク・カッセ厩舎、シャウン・ブリッジモハーン騎乗のノーブル・バードは、去年夏のデル・マーで5戦目にして初勝利を挙げた馬。前走同じチャーチル・ダウンズでケンタッキー・オークス当日に行われたアリシェバ・ステークス(GⅡ)で勝馬プロトニコ Protonico と頭差のニアミスをしたばかりで、アリシェバの前2走は何れもアローワンス戦で共にハナ差の辛勝でした。前走がG戦初挑戦でしたが、初勝利をGⅠで飾り、目出度くGⅠホースの仲間入りを果たしています。

この日の最後に行われたのが、マット・ウイン・ステークス Matt Winn S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)。1頭が取り消して6頭立て。三冠調教師ボブ・バファート師が送るフェイム・アンド・パワー Fame and Power が1対2の断然1番人気。プリークネス・ステークス当日の一般ステークス(サー・バートン・ステークス)の勝馬で、G戦はその前にレキシントン・ステークス(GⅢ)で3着して以来二度目の挑戦です。
しかしそのフェイム・アンド・パワーがスタートで出遅れ、何とか後方3番手からの苦しい展開となります。向正面でも内が開かずにスムーズな走りが出来なかった本命馬、直線では逃げた3番人気(5対1)のアイランド・タウン Island Town と2番手追走の最低人気(39対1)プライヴェイト・プロスペクト Private Prospect を外から追い上げて3頭の叩き合い。中央を通ったプライヴェイト・プロスペクトが挟まれて下がる不利がありましたが、最内で一旦は3番手に落ちたように見えたアイランド・タウンが最後で盛り返し、ゴールではフェイム・アンド・パワーを半馬身抑えて優勝。3馬身4分の1差でプライヴェイト・プロスペクトが3着でした。3着馬に騎乗したチャニング・ヒル騎手が勝馬に対して異議申し立てをしましたが、審議の結果、入線通りで確定しています。
イアン・ウイルケス厩舎、リグレットに続いてこの日G戦ダブルとなったジュリアン・ルパルー騎乗のアイランド・タウンは、3戦目となる去年10月のチャーチル・ダウンズで初勝利。今期3歳デビュー戦は6着でしたが、5月2日にチャーチル・ダウンズのアローワンス戦で2勝目。これで6戦3勝となります。

 

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