キングジョージは雨で状況一変
昨日イギリスで行われたG戦は3鞍でしたが、先ずは気になるキングジョージからレポートしましょう。10頭立て、無敗のダービー馬ゴールデン・ホーン Golden Horn が古馬を一蹴して・・・、となる筈でしたが。
その状況を変えたのは、レースの12時間前からアスコット競馬場で降り出した大雨。結局馬場は soft にまで軟化し、当日の朝になってゴスデン師が大本命馬の取り消しを発表します。日本では馬場状態を理由に取り消すという事例はほとんど、いや全くありませんが(そういうルールがあるのかしら?)、ヨーロッパでは日常茶飯事。
大金をつぎ込むような馬券の買い方はしない民族ですから、仕方ないこと、で済むのでしょうが、レースの興味は相当程度削がれたのは事実。その視点も全く変わってしまったと言えそうですね。
ということで今年のキング・ジョージⅥ世・アンド・クィーン・エリザベス・ステークス King George Ⅵ and Queen Elizabeth S (GⅠ、3歳上、1マイル4ハロン)。馬場は上記の様に soft 、ゴールデン・ホーンの他にもフランスから遠征する筈だったフリントシャー Flintshire 、更にザ・コルシカン The Corsican の3頭が取り消して7頭立て。全て古馬というメンバーによって争われます。
こんな中で1番人気に支持されたのは、やはりゴスデン厩舎のイーグル・トップ Eagle Top 、前走ハードウィック・ステークス2着で、去年のキングジョージ4着の実績が買われて5対2の本命に祭り上げられました。実はゴールデン・ホーンが取り消したため、騎乗する予定だったフランキー・デットーリがこちらに回り、当初発表されていたリチャード・ヒューズから乗り替わったことも人気の要因だったかもしれません。ヒューズ騎手は今期限りで引退が決まっており、あくまでも勝負に拘る競馬の世界ならではでしょう。
先ず最低人気(12対1)となった同じゴスデン厩舎のロムスダル Romsdal が逃げてペースを作ります。実質イーグル・トップのペースメーカーの様な役割を果たすことになり、本命は後方に待機し、順位に変更が無いまま直線。ここで2番手に付けていた4番人気(6対1)のポストポーンド Postponed が逃げ馬を交わして先頭に立ったところにイーグル・トップが外から追い上げて一旦はハナに立ちましたが、内で粘るポストポーンドが二の脚を使って差し返し、激しい叩き合いのまま2頭が首の上下でゴール。写真判定の結果、ポストポーンドがハナ差でイーグル・トップを抑えていました。
3馬身4分の3差が開いて逃げたロムスダルが3着に粘り、4着に5番人気(8対1)のマダム・チャン Madame Chiang 、3番人気(4対1)と意外に支持を集めたクレヴァー・クッキー Clever Cookie が5着、最後まで出否に迷っていた2番人気(3対1)のスノー・スカイ Snow Sky は6着ブービーに終わっています。やはり馬場以外にも不安視される要素があったのでしょうか。
これがGⅠ初制覇となるポストポーンドは、去年のクラシックにはトライアルまで進みながら縁が無かった4歳馬。昨シーズンはグレート・ヴォルティジュール・ステークス(GⅡ)に勝ちながらセントレジャーに参戦することなくシーズンを終えていました。今期はゴードン・リチャーズ・ステークス(GⅢ)2着、トトソルズ・ゴールド・カップ(GⅠ)3着、ハードウィック・ステークス(GⅡ)3着と何れもアダム・カービーとコンビを組んできましたが、今回はその前に騎乗していたアンドレア・アトゼニ騎乗でのビッグタイトル獲得です。
管理するのは、ヴェテランでイタリア出身のルカ・クマニ師。キングジョージは初制覇で、英国のGⅠ勝ちは2005年のスタークラフト Starcraft (クィーン・エリザベスⅡ世ステークス)以来10年振りと言う久々の美酒です。師はダービー2勝、セントレジャーも制しており、10年前にはアルカセット Alkaased でジャパン・カップを制した調教師と言えば記憶されている方も多いでしょう。
ポストポーンドは去年の時点から凱旋門賞が目標とされてきましたが、今年はキングジョージ勝馬として臨むことになりそう。尤も陣営では早くも来シーズンの現役続行を宣言しており、5歳馬としてキングジョージ連覇、凱旋門賞制覇が最終目標のようです。
なおゴール前の死闘、40年前のグランディ Grundy 対バスティノ Bustino を思い出すと評する記者もいましたが、アトゼニ騎手は6日間(8月8日から13日)、デットーリ騎手には4日間(8月8日から11日)の騎乗亭処分が課せられました。何れもムチの過剰使用によるものですが、色々物議を醸しているルールではあります。もし日本に適用されれば全レース、全てのジョッキーに適応されるかもしれません。
さて7月25日のアスコット競馬場は、キングジョージの前に恒例のプリンセス・マーガレット・ステークス Princess Margaret S (GⅢ、2歳牝、6ハロン)も行われています。ことらも1頭が取り消して6頭立て。最近G戦で2戦続けて入着しているべシャーラー Besharah が15対8の1番人気。
レースは直線のみ、スタートから内外大きく分かれるいつものパターン。スタンド側から最低人気(10対1)のカッシア Kassia がハナを切りましたが、スタンドから遠い側を先行していた本命べシャーラーが残り1ハロンで先頭に立つと、馬場の中央を通った4番人気(5対1)のグレート・ページ Great Page に3馬身差を付ける圧勝。半馬身差で馬場中央から一旦は先頭に躍り出たジョイント2番人気(4対1)のワットドゥーアイウォントザットフォー Whatdoiwantthatfor という何とも読み難く長ったらしい名前の馬が3着に入っています。
ウイリアム・ハッガス厩舎、パット・コスグレーヴ騎乗のべシャーラーは、新馬と一般戦に2連勝し、ロイヤル・アスコットのクィーン・メアリー・ステークス(GⅡ)で3着、前走ニューマーケットでもダッチェス・オブ・ケンブリッジ・ステークス(GⅡ)で勝馬とはハナ差の2着しており、ここは順当勝ち。陣営によれば3歳で大きく成長するタイプではなく、2歳戦が勝負とのこと。このあとはラウザー・ステークスからチーヴリー・パーク・ステークスというローテーションになりそうです。
そして昨日はヨーク競馬場も一鞍、ヨーク・ステークス York S (GⅡ、3歳上、1マイル2ハロン88ヤード)が行われました。こちらは雨も無く good to firm 、7頭が出走し、フランスから遠征してきたプリンス・ジブラルタール Prince Gibraltar が5対2の1番人気。去年の凱旋門賞7着馬で、前走シャンティー大賞典は2着の4歳馬です。
最低人気(12対1)のケリンニ Kelinni が逃げましたが、後方に待機したプリンス・ジブラルタールが一気に追い上げて先頭に立ったところに中団から伸びた6番人気(10対1)のタリアス Tullius が急襲し、これも後方差しの4番人気(7対1)トップ・ノッチ・トント Top Notch Tonto を半馬身抑える波乱。更に4分の3馬身差で本命のプリンス・ジブラルタールは3着に敗れました。
アンドルー・ボールディング厩舎、フィル・メイキン騎乗のタリアスは、これが去年のサンダウン・マイル(GⅡ)に続く2つ目のG戦勝ち。今期はドンカスターのリステッド戦に勝ったあと、ゴードン・リチャーズ4着、ダイオメド4着、エクリプス挑戦も5頭立て5着とクラスの壁に跳ね返されてきた7歳せん馬。しかし7歳になっても成長は続いているようで、チャンピオン・ステークスが目標。勝てなくとも入着賞金も少額ではなく、せん馬である以上は現役として稼げるだけ稼ごうというドライな側面もあるでしょう。
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