2015クラシック馬のプロフィール(12)

今年最後のこのコーナー、ドンカスターのセントレジャーを裁決ルームで獲得したボンダイ・ビーチ Bondi Beach の血統紹介です。実質の勝馬シンプル・ヴァーズ Simple Verse 陣営が来週初めにも降着に付いて提訴するということですから、あるいは裁決が覆されるかもしれません。しかしその時はその時、取り敢えず現時点での公式な勝馬を見ていきましょう。
その前に、これまで同馬を「ボンディ・ビーチ」と表記してきましたが、この馬名はシドニーにあるオーストラリア屈指のビーチから採った名前と言うことで、「ボンダイ・ビーチ」と表記すべきでしょう。レース実況アナウンサーもそう発音していましたから、この記事をアップしたあと、後出しジャンケンのようで気が引けますが、旧記事の何点かを訂正しておきます。

さてボンダイ・ビーチは父ガリレオ Galileo 、母ワン・モーメント・イン・タイム One Moment in Time 、母の父デインヒル Danehill という血統。父ガリレオについては、セントレジャーを制したのは意外にも2006年のシックスティーズ・アイコン Sixties Icon 以来2頭目ということだけにして、早速牝系に入りましょう。

母ワン・モーメント・イン・タイム(2003年 鹿毛)はクールモアの所有ですが、未出走のため競走成績はありません。いきなり繁殖成績から入ると、
2007年 ピンク・ソルト Pink Salt 鹿毛 牝 父エンコスタ・デ・ラゴ Encosta de Lago 未出走
2008年 ファルガー・パール Fulgor Pearl 鹿毛 牝 父フサイチ・ペガサス Fusaichi Pegasus 不明
2011年 バザール Bazaar 栗毛 牡 父ガリレオ オブライエン厩舎で5戦2勝 勝鞍は9.5ハロンと10ハロン
2012年 ボンダイ・ビーチ
2013年 ユニコーン Unicorn 鹿毛 牡 父ガリレオ オブライエン厩舎で、現時点で2戦1勝 勝鞍は8ハロン

最初の2頭の牝馬は何れもオーストラリアで生産された馬で、詳しい成績などは判りません。その後アイルランドでシンジケートが組まれ、ボンダイ・ビーチは2頭目の産駒になります。
一つ上の全兄のバザールは今年4歳デビュー時した馬で、バリンロープの9.5ハロン戦とネイヴァンの10ハロン戦に勝っていますが、前者は3馬身差、後者は5馬身差で勝っていますから、決して凡馬とは言えないでしょう。
また一つ下の全弟ユニコーンも、今年のデビュー戦で2着し、2走目にレパーズタウンの1マイル戦に勝って2戦1勝。これからの馬です。

次に2代母ホテルジェニー・ドット・コム Hotelgenie Dot Com (1998年 芦毛 父セルカーク Selkirk)に行きましょう。この芦毛はその母から受け継いだものです。
この風変わりな名前(ボンダイ・ビーチはその連想からか?)を持つ牝馬は、英国でミック・シャノン厩舎に所属し、7戦1勝だった馬。その勝鞍は2歳のデビュー戦、サンダウンの7ハロンでのものです。

新馬勝ちしたホテルジェニー・ドット・コムは、3戦目でアイルランドのモイグレア・スタッド・ステークス(GⅠ)に挑戦して2着、続けてアスコットのフィリーズ・マイル(GⅠ)にも出走して3着と好走します。
しかし期待された3歳時は全く奮わず、3戦して何れも最下位か後方に敗退して未勝利。3歳シーズンを最後に引退し、繁殖に上がりました。その初産駒がワン・モーメント・イン・タイム。

産駒は現在まで毎年の様に11頭を数えますが、調べた限りでは勝馬は3頭だけ。しかしその3頭の中に、ワン・モーメント・イン・タイムの一つ下の全妹に当たるシンプリー・パーフェクト Simply Perfect (2004年 芦毛)が出ます。
シンプリー・パーフェクトはクールモアの所有馬ですが、調教したのは英国のジェレミー・ノセダ師。2歳で頭角を現し、この年は7戦して3勝。5ハロンのデビュー戦は2着でしたが、未勝利のまま2戦目でロイヤル・アスコットのクィーン・メアリ・ステークス(GⅡ)で2着して注目を集めます。3戦目にリングフィールドの6ハロン戦を順当に且つと、4戦続けてG戦に挑戦。ヨークのメイ・ヒル・ステークス(GⅡ)、アスコットのフィリーズ・マイル(GⅠ)と1マイルのG戦に連勝してシーズンを終えます。5ハロンでデビューした馬が1マイルのGⅠ戦に勝つというのは、現在でもヨーロッパでは珍しい「事件」でしょう。

3歳になったシンプリー・パーフェクトは当然ながらクラシックを目指しますが、1000ギニーではフィンシール・べオ Finsceal Beo の3着と掲示板に載ったものの、オークスは6着と敗退、距離の壁があることを露呈しました。
その後は距離を1マイルに絞り、ニューマーケットのジュライ・ミーティングでフォルマス・ステークス(GⅠ)を制して二つ目のGⅠ奪取。その後もアスタルテ賞3着、サン・チャリオット・ステークス4着とGⅠ戦に出走を続け、その年のBCに遠征して再び10ハロンに出走、フィリー・アンド・メア・ターフは残念ながら競争を中止して現役を終えました。
シンプリー・パーフェクトの産駒では、やはりクールモアの所有でエイダン・オブライエン師が調教したメコン・リヴァー Mekong River (2011年 鹿毛 父ガリレオ)がおり、インターナショナル・ステークス(GⅢ)など7ハロンから10ハロンまでに5勝しました。彼女からは、未だこれからも優れた馬たちが出現すると思われます。

続いて3代母パーチ・クリーク Birch Creek (1982年 芦毛 父カーホワイト Carwhite)。彼女の脚毛はカロ Caro の産駒である父から受け継いだもので、これがシンプリー・パーフェクトに引き継がれていると見て良いでしょう。
パーチ・クリークは6戦して未勝利でしたが、フランスとイタリアで走り、イタリアではGⅢのロイヤル・マーレス賞(1600メートル)で3着するなど、単なる未勝利馬ではありませんでした。

パーチ・クリークにはホテルジェニー・ドット・コムの他にビアンカ・ネラ Bianca Nera (1994年 黒鹿毛)という娘がおり、2歳時にヨークでラウザー・ステークス(GⅡ)、カラーでモイグレア・スタッド・ステークス(GⅠ)に勝ってGⅠ馬の仲間入りを果たします。マルセル・ブーサック賞は4着、翌年の1000ギニーも11着とその後の勝鞍には恵まれませんでしたが、エヴァー・リグ Ever Rigg という娘を産みます。
このエヴァー・リグこそ今年のキングジョージを制したポストポーンド Postponed の母で、先週日曜日にはフォア賞に勝って凱旋門賞候補の1頭にカウントされているのはご存知の通り。つまりボンダイ・ビーチのファミリーは、今年はGⅠ馬を2頭も輩出するという活躍で、もしファミリー・オブ・ザ・イヤーという称号があれば、受賞候補の一つに選ばれることは間違いないでしょうね。

ボンダイ・ビーチの4代母ディード Deed (1970年 鹿毛 父デリング=ドゥー Derring-Do)は2歳時に5ハロンで勝った馬で、7頭の勝馬の母。その産駒で能力があったのは全てスプリンターで、5ハロンのバリオーガン・ステークス(GⅢ)に勝ったグレート・ディーズ Great Deeds が代表産駒でしょう。

しかし5代母オーロラベラ Aurorabella (1952年 栗毛 父ボーリアリス Borealis)まで遡るとスタミナを武器にする馬が登場し、オーロラベラの全兄ダブル・ボア Double Bore はグッドウッド・カップ(GⅡ、16ハロン)の勝馬です。
以上、ボンダイ・ビーチのファミリーは、配合する種牡馬によりスプリンターを産んだり、またステイヤーを出すなど、比較的柔軟というか父系に左右され易い血統と言えるかもしれません。ボンダイ・ビーチは母と言うより、父ガリレオの血を強く引くと見た方が良いかも。

ファミリー・ナンバーは14-c。三冠馬(1000ギニー、オークス、セントレジャー)プリティー・ポリー Pretty Polly (1901年)から比較的最近枝分かれした牝系です。

 

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