読売日響・第470回定期演奏会

昨晩行われた読響定期のレポートです。
“今日は凄いことになるぞ” という予感は朝から波乱を含み、太平洋側南岸で発達する低気圧に向かって激しい風雨。まるで嵐ではないか・・・。「嵐を呼ぶスクロヴァチェフスキ」。
コンサートが始まる7時前、さすがに雨風ともに弱まりましたが、まだ冷たい雨がカラヤン広場を濡らしています。
チケットは早々と完売、それでも当日断念組の流れチケットを求めて看板を掲げる人達も出ていたそうな。
会場で受け取ったプログラムには1枚のチラシ。「スクロヴァチェフスキ氏 任期延長のお知らせ」が挟まれています。マエストロの“お客様と読売日響の熱意がうれしい。常任指揮者を続けたい”という意向を汲んで、氏の任期が1年間延長され、2009年9月と2010年3月の読響の指揮台に登場される由。
同じ定期会員の知人とも、“ヨカッタですねぇ、嬉しいですねぇ”という挨拶に。
この日のプログラムはこれ。
ブルックナー/交響曲第5番
 指揮/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
 コンサートマスター/藤原浜雄
 フォアシュピーラー/小森谷巧
期待通り、正に期待通り素晴らしいブルックナー体験でした。言葉はこれだけで充分なくらい。それでも蛇足として付け加えるならば・・・。
先般の第2交響曲でも感じ、日記にも書いたとおり、スクロヴァチェフスキのブルックナーは金管を無節操に咆哮させて威圧するのではなく、あくまでも書かれた音符を確実に聴き手の耳に届くように配慮する姿勢。
特に第5番は対位法が複雑に絡み合っている作品だけに、内声部を絶妙なバランスで引き立てることにより、音楽はより豊かに、なおかつ各パートがクリヤーに響いてくるのでした。
この矛盾するような表現が現実の音として聴こえてくる様は、奇跡と呼んでもよいほど。もちろんオーケストラの純度の高さを得て初めて可能であった、と言えるでしょう。
繰り返しますが、スクロヴァチェフスキのブルックナーは「音は多少濁っても、腹にズシリと響く」ものとは正反対、微妙なニュアンスの世界、どこまでも「美しい」ブルックナーなのです。
また第5は、様々なパッセージが現われては消え、再び顔を出すという具合で、構成的に捉え難い交響曲という感じが付き纏います。
しかしスクロヴァチェフスキの徹底して透徹したスコアの読みは、どこにも曖昧な箇所を残さず、どのパッセージも極めて強い説得力を伴って存在するのでした。
その様は、あたかもジグソーパズルが、最後の一片まであるべき場所にピタリと収まるが如し。
この夜、スクロヴァチェフスキは第3楽章と第4楽章の間でオーケストラにチューニングを要求しましたが、意図したものか偶然か、第1楽章と第4楽章開始部の相似性を図らずも浮き立たせる効果を齎していましたね。
その他、どこまでも美しく、精神的な高さを厳しく追求した第2楽章の素晴らしさ。どこかユーモラスな雰囲気を垣間見せた踊るような第3楽章。全楽器が強奏する中でもクッキリと浮かび上がる木管の小さなパッセージ。金管コラールの可能な限り歌い切る艶やかな響き。
挙げ出せば限がありません。
この日の名演、聴衆の素晴らしい反応も讃えねばなりますまい。これまでマエストロのブルックナーに対して野蛮なまでのフライング拍手と蛮声で妨害してきた読響定期会員の諸君が、遂にマエストロ独特の終了合図に見事に反応し、最後の和音が消えてなお暫く沈黙を以って指揮者とオーケストラを受け入れたのです。
この日の聴衆の「名演」にも大ブラヴィを。
客席の大歓声に何度も応えるマエストロ、この日ばかりはオーケストラが解散した後もなお拍手鳴り止まず、再度スクロヴァチェフスキを呼び出したくらいです。舞台に残っていた若干のオケ・メンバーも聴衆の一員。共に盛大な拍手を捧げている様は、氏の任期延長に対する感謝の表れでもあったのでしょう。
最後にこういうことを書くのは野暮でしょうが・・・。
この定期、たった1回の演奏だけで終わったのは何とももったいない。特に聴きたくても聴けない方々にもチャンスを与えて欲しかったですね。特に関西方面、このプログラムで大阪、京都、名古屋のいずれかでも演奏会を催してくれればどれほど良かったか・・・。
それに。
チケット完売とは言え、実際には空席もかなりありました。恐らく定期会員の中には都合で来れなかった人もいるでしょう。ブルックナーは苦手という方もいたかも知れません。
空前絶後のこの機会、定期会員券の買戻しという制度を考えてみては如何か。最初から欠席される方のチケットを事務局が買い取り、多少のプレミアムが付いても聴きたいという聴衆のために斡旋する制度。
聴けずに悔しい思いをされた諸氏を思っての提案ですが。

 

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