混戦ダービーに新たな主役

昨日のヨーク・メイ・ミーティング、ダービーを占う重要なトライアルであるダンテ・ステークス(GⅡ、3歳、1マイル2ハロン)が行われました。
ダンテ Dante というのは「神曲」を書いたダンテのことでは、もちろんありません。馬の名前です。そもそもこの馬の名前はイタリアの詩人ダンテから採ったものではありますがね。
ダンテは1942年生まれ、ということは第2次世界大戦当時の競走馬。調教したマシュー・ピーコックさんはヨークシャーをベースにしていた調教師です。
ところで日本の競馬は「東西対決」の図式になっていますね。イギリスではこれが「南北対決」。日本ほど極端ではありませんが、ニューマーケットを中心にした「南」側に対し、ヨークシャーを中心に調教されている「北」がチャレンジする、という絵が描けると思います。当然ながら、北側は歴史的に圧倒的劣勢。
で、ダンテは2歳で頭角を現し、「北」のアイドルになった名馬です。3歳の時にはニューマーケットで行われたダービー(戦争は終わっていましたが、戦後の混乱のためエプサムは閉鎖されていました)で劇的な優勝。ダンテ、盲目のダービー馬としても有名なように、ダービー時点で既に目を患っており、後に完全に失明してしまうのです。
ダンテがダービーに勝った時、ヨークでは教会の鐘が一斉に鳴らされ、後にはダンテ・ボール(ダンテ舞踏会)が行われ、騎乗したネヴェット騎手が皆に担がれるというお祭り騒ぎにまでなったほどなんですねぇ。
何しろ「北」の馬がダービーに勝ったのは1869年のプリテンダー以来、ダンテ以後はまだ勝っていないと思いますね。
ということでダンテ・ステークスは、ヨーク競馬場の名物トライアルなんです。
さて今年、ダンテを制したのはマイケル・スタウト師が調教するタータン・ベアラー Tartan Bearer 。10対1の中穴でした。騎手はライアン・ムーア。お馴染のコンビです。ただし2着フローズン・ファイア Frozen Fire (オブライエン/ムルタのコンビ)とは頭差でしたが・・・。
本命はクレイヴァン・ステークスに勝ち、レース前までダービーの1番人気に支持されていたトゥワイス・オーヴァーでしたが、何と3着の惨敗でした。2着とは2馬身半差。どうやらダービーは欠場する模様です。
タータン・ベアラーは、父スペクトラム、母ハイランド・ギフトですから、ゴラン Golan の全弟です。ゴランはご存知、2000ギニーとキング・ジョージに勝った馬で、2001年のダービーではガリレオの2着でした。
その名血が10対1の人気でしかなかったのは、実績がなかったから。2歳時は1戦して2着。3歳になってレスター競馬場の未勝利戦に勝ったばかり。2戦1勝の未知数だったんですねぇ。
しかしそのヴェールが剥がされたタータン・ベアラー、俄然ダービーの有力候補にのし上がってきました。
そもそもダンテ・ステークスは、ダービーに向けて最も信頼されているトライアル。近年に限ってもダンテ=ダービー・ダブルを達成した馬は、ベニー・ザ・ディップ Benny The Dip 、ノース・ライト North Light 、モティヴェイター Motivator 、それに去年のオーソライズド Authorized と4頭も出ていますからね。
おまけにタータン・ベアラーの馬主はバリマコール・スタッド。2004年のダービー馬ノース・ライトと同じです。しかもですね、ノース・ライトとタータン・ベアラーには強力な共通点が他にもあります。
共に3月生まれ、生まれた「うまや」まで同じなんですと・・・。
ということで今年のダービー、トライアルがある毎に本命馬がコロコロ変わる混戦になっています。今日現在の人気では、カーテン・コール、タータン・ベアラー、それに先週末レパーズタウンのデリンスタウン・ダービー・トライアル(これについては日記で触れませんでしたが)を6馬身で圧勝したアイルランドのカジュアル・コンケスト Casual Conquest の三つ巴という様相になっています。
(カジュアル・コンケストはそもそもダービーに登録がありませんでしたが、多額の追加登録料を払ってエプサムに参戦するという意向が、今朝、デルモット・ウェルド調教師から発表されています)
タータン・ベアラーを出走させるスタウトさん、他にもドクター・フレマントル、タジャウィードという持ち駒も隠していますからね、今年はスタウトの年かな・・・?
序でと言ってはなんですが、この日のもう一つのパターン・レースであるミドルトン・ステークス(GⅢ、4歳上牝、1マイル2ハロン)。これはプロマイジング・リード Promising Lead という新星が、2着アンダー・ザ・レインボウ Under The Rainbow に3馬身4分の3差をつけて圧勝しています。何とこれもスタウト/ムーアのコンビ。但し馬主は、皮肉なことにカーリッド・アブドゥッラー殿下で、ダンテで惨敗した本命馬トゥワイス・オーヴァーの馬主でもあります。正に競馬の機微。

 

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