2017クラシック馬のプロフィール(5)

アイルランドのギニーが共に英ギニー馬の手に落ちたので、今回のプロフィールは今年5頭目。先日オークスを制してオブライエンの、ガリレオ Galileo の独占を阻止したイネイブル Enable です。
イネイブルは父ナサニエル Nathaniel 、母コンセントリック Concentric 、母の父サドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells という血統。

牝系に入る前に、先ず父ナサニエル。今年のクラシック世代が初年度産駒となるナサニエルは、当ブログにほぼ全レース振りが登場する同時代の存在。
3歳時にロイヤル・アスコットでキング・エドワード7世ステークス(GⅡ)に勝ち、続くキングジョージも連勝してGⅠホースに。4歳時にもエクリプス・ステークスを制して二つ目のGⅠを獲ると、キングジョージと愛チャンピオンでは何れも2着となり、現役最後にアスコットのチャンピオン・ステークスで、皮肉にも同期のフランケル Frankel の3着に敗れました。
フランケルとは同時に種牡馬入りしましたが、ヨーロッパのクラシックではライヴァルに先んじてイネイブルがオークスを制覇したことになります。一方フランケルはソウルスターリングで日本オークスを制したことはご存知の通り。これからも2頭のライヴァル関係が続いて行くことでしょう。

さて牝系、父は「皮肉にも」フランケルに敗れたと言いましたが、イネイブルのファミリーは、正にフランケルのオーナー/ブリーダーでもあるハーリッド・アブダッラー氏、即ちジャドモント・スタッドが長年育んできた牝系でもあるのです。その辺りを遡りながら探っていきましょう。
母コンセントリック(2004年 鹿毛)もオークス馬同様ジャドモント・ファームで生産され、ハーリッド・アブダッラー氏がオーナーとして走った馬。フランスでアブダッラー氏の馬を主に管理しているアンドレ・ファーブル師が調教し、3歳から5歳までの2シーズン走って7戦3勝でした。
3歳の4月にロンシャンの2000メートルでデビュー勝ち、5月シャンティーの2000メートル一般戦2着を挟んでロンシャンの2000メートル一般戦を制して2勝目。夏場は休んで10月にシャンティのリステッド戦(シャルル・ラフィット賞、2000メートル)で3勝目(最後の勝鞍)を挙げ、サン=クルーのフロール賞(GⅢ、2100メートル)に1番人気で出走しましたが2着でシーズンを終えます。

4歳時は僅か2戦、4月にロンシャンのリステッド戦(2100メートル)3着、同じ4月末にはシャンティーのアレ・フランス賞(GⅢ)に出走して7着と初めて掲示板を外し、これを最後に繁殖牝馬として引退しました。その成績は現在までのところ、
2010年 コンシデレート Considerate 鹿毛 牝 父ダンジリ Dansili 未出走。
2011年 トーナメント Tournament 鹿毛 牡 父オアシス・ドリーム Oasis Dream アブダッラー所有、ファーブル厩舎で3歳時5戦1勝(勝鞍は1700メートル)のあと英国に転売され、3歳から5歳まで走って14戦2勝(勝ち距離は共に1マイル)。
2012年 コントリビューション Contribution 鹿毛 牝 父シャンゼリゼ Champs Elysees アブダッラー/ファーブルで3歳から4歳まで走り10戦1勝。勝鞍はメゾン=ラフィットの3000メートルで、アレ・フランス賞(母は7着)3着、コリダ賞(GⅡ、2100メートル)4着、ポモヌ賞(GⅡ、2500メートル)3着。
2013年 バードウッド Birdwood 鹿毛 牝 父オアシス・ドリーム 未出走。
2014年 イネイブル

2代母アポジェ Apogee (1990年 鹿毛 父シャーリー・ハイツ Shirley Heights)もまたジャドモント・ファーム産、アブダッラー・オーナー、ファーブル厩舎の馬で、3歳時のみ5戦3勝。
2000メートルのデビュー戦から同じ2000メートルを経、ロヨーモン賞(GⅢ、2400メートル)まで3連勝。10月のロワイヤリュー賞(GⅡ、2500メートル)は8頭立ての最下位、11月のフィーユ・ド・レール賞(GⅢ、2100メートル)の3着で現役を終えました。彼女の繁殖成績も一覧表に纏めておくと、
1997年 スペース・クエスト Space Quest 鹿毛 牝 父レインボウ・クエスト Rainbow Quest 6戦2勝。アブダッラー/ファーブルで2400メートルのリステッド戦(ジョベール賞)に優勝し、ポモヌ賞4着。ステイヤーの母。
1998年 ライト・バレー Light Ballet 鹿毛 牝 父サドラーズ・ウェルズ 6戦1勝。アブダッラー/ファーブルでミネルヴァ賞(GⅢ、2500メートル)3着、仏オークスは12頭立て10着。
1999年 ダンス・ルーティン Dance Routine 鹿毛 牝 父サドラーズ・ウェルズ 8戦3勝。アブダッラー/ファーブルでロヨーモン賞とロワイヤリュー賞に優勝。仏オークスとノネット賞(GⅢ、2000メートル)で2着し、ヴェルメイユ賞は8着。産駒に付いては後述。
2000年 マジカル・クエスト Magical Quest 鹿毛 せん 父レインボウ・クエスト ジャドモント・ファーム生産も英国に売却。平場で3戦1勝(勝鞍はリングフィールドの1マイル6ハロン)したあと障害で出走。
2001年 アプシス Apsis 鹿毛 牡 父バラシア Barathea 11戦6勝。アブダッラー/ファーブルで2歳時にトーマス・ブライアン賞(GⅢ、1600メートル)、5歳時にはシュマン・ド・フェル・デュ・ノール賞(GⅢ、1600メートル)に優勝し、他にGⅢ戦で3回2着。種牡馬。
2003年 アパッシェ・フォート Apache Fort 鹿毛 せん 父デザート・プリンス Desrt Prince 56戦7勝。ジャドモント生産の売却馬で、平場・オールウェザー・障害と何処でも走った。
2004年 コンセントリック
2005年 サミット・ミーティング Summit Meeting 鹿毛 牡 父サドラーズ・ウェルズ 10戦3勝。売却馬で、主にアイルランドの障害戦。
2007年 アピアランス Appearance 鹿毛 牝 父ガリレオ Galileo 未出走。
2013年 カルミネーション Culmination 鹿毛 せん 父ビート・ホロウ Beat Hollow 現時点で8戦2勝の現役。アブダッラー/ファーブルでデビュー勝ちも直ぐ売却、障害レースで活躍中。

以上がアポジェの成績ですが、コンセントリックがイネイブルを出す前に、3番仔のダンス・ルーティンが産んだフリントシャー Flintshire に触れないわけにはいきません。
イネイブルと祖母を同じとするフリントシャーは、やはりジャドモント・ファーム生産、アブダッラー・オーナーの勝負服、アンドレ・ファーブル師の管理下で走り、3歳時にはリス賞(GⅢ、2400メートル)からパリ大賞典(GⅠ、2400メートル)と連勝。4歳時は香港ヴァーズの1勝のみでしたが凱旋門賞(トレーヴ Treve)とBCターフで何れも2着してこの年のヨーロッパ古壮馬チャンピオンに選ばれます。
5歳時にはサラトガに遠征してソード・ダンサー・ステークス(芝GⅠ、2400メートル)に優勝し、フランスに戻ってまたも凱旋門賞(ゴールデン・ホーン Golden Horn)2着。6歳の6月にファーブル厩舎からアメリカのチャド・ブラウン厩舎に転じ(オーナーはジャドモント・ファームのまま)、マンハッタン・ステークス(GⅠ、2000メートル)とソード・ダンサー2連覇を含めて3連勝するなど活躍。最後は2度目となるBCターフ2着で現役を終えました。
フリントシャーは、今年の春からケンタッキーで供用中。その産駒は東京オリンピックの年にデビューを迎えることになります。

さぁ、3代母バーボン・ガール Bourbon Girl (1984年 鹿毛 父イル・ド・バーボン Ile de Bourbon)に行きましょう。ここからは出来るだけ簡潔に紹介しますが、彼女もまたハーリッド・アブダッラー氏の所有馬で、英国のバリー・ヒルズ師が調教しました。
現役時代は6戦1勝、勝鞍は2歳デビュー戦7ハロンの一鞍のみですが、ミュジドラ・ステークス(GⅢ、10.5ハロン)2着から英オークス、愛オークスと3戦続けての2着。その後はオークス2着馬としての期待を裏切ってキングジョージ9着最下位、ヨークシャー・オークス3着、イタリア遠征のリディア・テシオ賞(GⅠ、2000メートル)も10頭立ての7着で現役を終えました。
彼女の産駒ではアポジェの他、半姉のシャイニング・ブライト Shining Bright がオークスで5着になり、その仔スパニッシュ・ムーン Spanish Moon がやはりアブダッラー氏の勝負服、サー・マイケル・スタウト厩舎でサン=クルー大賞典を制してGⅠ馬になっています。

バーボン・ガールの娘デアリング・ミス Daring Miss はシャンティー大賞典(GⅡ、2400メートル)の勝馬で、サン=クルー大賞典は2着。産駒にもミュジドラ・ステークス2着のクイックファイア Quickfire が出ました。これらも全てジャドモント・スタッドが生産し、ハーリッド・アブダッラー氏の所有馬です。

4代母のフリート・ガール Fleet Girl (1975年 栗毛 父ハビタット Habitat)、更にその母フリート・ノーブル Fleet Noble (1970年 鹿毛 父ヴェイグリー・ノーブル Vaguely Noble)を一纏めにアブダッラー氏が繁殖牝馬として購入した時は、近親に大した活躍馬も無く、価格的には絶好のタイミングだったと言えるでしょう。
以上見てきたように、今年のオークス馬イネイブルは、正にジャドモントが育てて産んだクラシック馬であることがお分かり頂けたことと思います。

ファミリー・ナンバーは4-m。1841年生まれのマグノリア Magnolia を基礎とする牝系です。

 

 

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