ドーヴィルのダブル衝撃

8月も丁度中間点、15日の火曜日にはフランスのドーヴィル競馬場で3鞍のG戦が行われました。どれもGⅡ戦とGⅢ戦ですが、フランスを代表する強豪2頭が登場するとあって、話題としてはGⅠ級の注目が集まっています。

馬場は good 、戦時を切ったのはゴントー=ビロン賞 Prix Gontaut-Biron (GⅢ、4歳上、2000メートル)で、僅か6頭立てのレースでしたが、去年の最強馬アルマンゾル Almanzor が300日振りに実戦を迎えるとあって1対2の圧倒的1番人気。
勝つか負けるかではなく、どんな勝ち方で復活の狼煙を上げるかだけが見所でしょう。ここでは格が違い過ぎますが、ほぼ1年のブランクがあるため仏ダービー、愛チャンピオン、英チャンピオンとGⅠ戦3勝のペナルティーはありません。

アルマンゾルのペースメーカーを務めるザフィロ Zafiro が逃げ、アルマンゾルは後から二つ目の5番手で待機。6頭が縦に1頭づつ並ぶ流れのまま直線に入りましたが、アルマンゾルは中々上がってきません。ペースメーカーのジョッキーが不安になって後ろを振り返る場面もみられる中、2番手に付けていた4番人気(68対1)のファースト・シッティング First Sitting が先頭に立つと、3番手を進んでいた3番人気(11対2)のガーリンガリ Garlingari に4分の3馬身差を付ける番狂わせです。
逃げていたザフィロでさえ2馬身差の3着に粘り込み、負けるはずのないアルマンゾルは最下位争いの写真判定の対象で、結局5着同着と屈辱の大敗に終わりました。これまで今年の凱旋門賞の最有力候補の1頭と目されていたアルマンゾルですが、オッズはレース前の6対1から20対1へと急落。連覇が掛かる愛チャンピオンと英チャンピオンのオッズからは共に外されるという衝撃が走っています。

勝ったファースト・セッティングという馬は、クリス・ウォール厩舎、ジェラール・モッセ騎乗の英国調教6歳せん馬で、もちろんこれがG戦初勝利。何度も厩舎が変わっており、3歳まではアイルランドのデルモット・ウェルド厩舎で未勝利。4歳時はデヴィッド・オメーラ厩舎に転じて2勝。
5歳から現在のウォール厩舎に所属し、去年はハンデ戦に2勝。今期はゴードン・リチャーズ・ステークス(GⅢ)7着で始動し、グッドウッドのリステッド戦に優勝。そして前走フランス遠征でラ・クープ賞(GⅢ)に3着し、この日を迎えていました。

アルマンゾル凡走のショックが癒えぬまま迎えたのが、ギョーム・ドルナーノ賞 Prix Guillaume d’Ornano (GⅡ、3歳、2000メートル)。去年はアルマンゾル、一昨年はニュー・ベイ New Bay と2年連続でその年の仏ダービー馬が制し、そろそろGⅠ戦に格上げされるのではと言う噂のあるGⅡ戦ですが、今年も仏ダービー馬ブラムトー Brametot を含む8頭が参戦し、もちろんブラムトーが13対10の断然1番人気。凱旋門賞へのステップとして負けられない一戦です。
レースは3番人気(17対5)のエミネント Eminent が積極的にハナを奪って逃げ、ブラムトーは恒例の出遅れから最後方に待機。前のレースと同じように8頭が縦一列に並ぶ展開のまま直線に向きましたが、ブラムトーは何故か動きが悪い。スタンドも不安げに見守る中、エミネントが2番手を追走していた7番人気(25対1)のサルーエン Salouen に3馬身差を保ったまま逃げ切ってしまいました。4番手に付けていた5番人気(15対1)のアヴィリウス Avilius が1馬身4分の3差の3着に続き、ブラムトーは外に出して追い上げたものの5着に敗退。アルマンゾルに続く大敗で、またもやドーヴィルに衝撃が走りました。
アルマンゾルとブラムトーは共にジャン=クロード・ルジェ師の管理馬。敗因は夫々に異なるのでしょうが、フランス競馬界に暗雲が立ち込めます。レース前は凱旋門賞のオッズが8対1だったブラムトー、こちらもアルマンゾルと同じ20対1に下落。反動で英国の牝馬イネイブル Enable のオッズは5対4に上がったようです。

マーチン・ミアード厩舎、ライアン・ムーアが騎乗したエミネントは、今期初戦にクレイヴァン・ステークス(GⅢ)に勝った馬で、2000ギニーは6着、ダービーでも4着と健闘しましたが、前走エクリプス・ステークスは5着最下位に敗れていました。3戦連続でGⅠ戦を使われてきただけにフロックとは言えませんが、それ以上にブラムトー敗戦のショックが大きかったと言えそうです。
因みに2着のサルーエンも英国調教馬(シルヴェスター・カーク厩舎)で、英国のワン・ツー・フィニッシュ。フランス競馬界は顔色無し。

最後は3歳牝馬のマイル戦、リューレー賞 Prix de Lieurey (GⅢ、3歳牝、1600メートル)。8頭が出走し、前走メゾン=ラフィットのリステッド戦を含めて2連勝中のエスキッス Esquisse が6対4の1番人気に支持されていました。
逃げたのは最低人気(22対1)のリミテッド・エディション Limited Edition 、エスキッスは中団から追い込む構えを見せましたが、伸びたのは最後方に待機していた3番人気(22対5)のレディー・フランケル Lady Frankel 。2番手でマークしていた4番人気(7対1)のティスパッタドリーム Tisbutadream がギリギリ粘るリミテッド・エディションをゴール手前で捉えた時、内で前が開かず外に持ち出したレディー・フランケルの末脚が爆発し、ゴール寸前でティスパッタドリームを短首差捉えての鮮やかな差し切り勝ちでした。4分の3馬身差で逃げたリミテッド・エディションが3着に粘り、エスキッスは4着まで。

レディー・フランケルはアンドレ・ファーブル厩舎、ピエール=シャルル・ブードー騎乗で、今年3月にサン=クルーでデビュー勝ちした馬。続くグロット賞(GⅢ)で3着しましたがギニーには向かわず、5月のサン=タラリ賞で6着。前走メゾン=ラフィットのリステッド戦(リラ賞)は1番人気で3着に敗れましたが、5戦目でのG戦初勝利となります。
馬名から判るように、父はフランケル Frankel 。ギョーム・ドルナーノ賞に勝ったエミネントもフランケル産駒で、ダブル衝撃がフランス競馬界を直撃したこの日、偉大なる父はG戦ダブルを達成となりました。

 

 

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