シャンティー・トライアル・シリーズ2

アイルランドのG戦3連発をレポートして一休み、次は日曜日のシャンティーG戦6鞍をレース順に取り上げていきます。フォア賞は最後から2番目ですから、そこだけ読みたい方は飛ばしてください。

この日のシャンティー競馬場は soft 。どうしても重馬場空っ下手という馬にとっては出番がなさそうです。6鞍の内5鞍は3週間後の本番に向けて何らかのトライアルとなるレース達。昨日は3鞍が凱旋門賞のトライアルとして認知されており、あとは短距離と長距離という内容です。
最初のプティ・クーヴェール賞 Prix du Petit Couvert (GⅢ、3歳上、1000メートル)は、アベイ・ド・ロンシャン賞(GⅠ)を見据えた馬たち10頭が揃い、G戦は初出走ながらローカルとドーヴィルで3連勝中のコックス・バザール Cox Bazar という馬が6対5の1番人気に支持されていました。

そのコックス・バザールがスタートから飛び出して逃切りを図りましたが、残り2ハロン地点で8番人気(186対10)のレディー・マカパ Lady Macapa に交わされると早や一杯。そのままレディー・マカパが後方から追い込む2番人気(51対10)のゴールド・ヴァイブ Gold Vibe を首差抑えて優勝。先行して残った5番人気(91対10)のファッション・クイーン Fashion Queen が短頭差の3着でした。コックス・バザールは6着敗退。
クライヴ・コックス厩舎、同馬には今回が初となるルーク・モリス騎乗のレディー・マカパは、これがG戦初勝利となる英国の4歳牝馬。前走G戦初挑戦となるハックウッド・ステークス(GⅢ)で3着したばかりですが、短距離は英国馬というブランドも味方したようです。

次は凱旋門賞トライアルのニエル賞 Prix Niel (GⅡ、3歳牡牝、2400メートル)。但し、近年は古馬のためのフォア賞と共にこれらから凱旋門賞に勝つ馬は長く出ておらず、トライアルとしての意味は急速に衰退している一戦でもあります。僅かに5頭立てで、ここは凱旋門賞参戦が明白ではないクラックスマン Cracksman が2対5の圧倒的1番人気。イギリスとアイルランドのダービーで夫々3・2着、フランケル Frankel 産駒。凱旋門賞うまゴールデン・ホーン Golden Horn と同じ馬主、今年の凱旋門賞大本命イネイブル Enable と同じ厩舎、同じジョッキーと人気の要素は豊富です。
同じフランケル産駒で2番人気(42対10)のフィンチ Finche が逃げ、クラックスマンは2番手。直線、期待通り逃げ馬を捉えた大本命、3番手から追い縋る4番人気(78対10)のアヴィラス Avillus に3馬身半差を付ける大楽勝でトライアルをクリアーしました。逃げたフィンチが1馬身差で3着。

ご存知の通りクラックスマンはジョン・ゴスデン厩舎で、ランフランコ・デットーリのお手馬。G戦は意外にも前走グレート・ヴォルティジュール・ステークス(GⅡ)が初勝利でしたが、これで2連勝。
当然ながらこの楽勝で凱旋門賞のオッズは上がりましたが、オーナー・サイドは相変わらず凱旋門賞参戦を明確にせず、オッズも直ぐに元の10対1に戻りました。仮にイネイブルに突然の事態でも発生しない限りは、クラックスマンの凱旋門賞は無いでしょう。但し、来年の目標が凱旋門であることは明らかで、ゴスデン/デットーリは2017/2018連覇が目標です。

そしてヴェルメイユ賞 Prix Vermeille (GⅠ、3歳上牝、2400メートル)も凱旋門賞に繋がるGⅠ戦ですが、本来は牝馬三冠の最後として設立されたレース。現在では古馬にも開放され、今年は3歳馬3頭と古馬8頭、合計11頭が出走してきました。41対10の1番人気に支持されたのは、去年秋のアスコットでチャンピオンズ・フィリーズ・アンド・メア(GⅠ)を制したジャーニー Journey 。今期はコロネーション・カップとプリティー・ポリー・ステークスに使って何れも掲示板を外していますが、そろそろ秋馬として覚醒するのではという期待感でしょうか。
9番人気(132対10)の伏兵アジマン・プリンセス Ajman Princess が逃げ、先行したジャーニーが残り2ハロンで満を持したように先頭。人気に応えて久し振りの勝利かと思われましたが、中団に待機していた2番人気(53対10)のバティール Bateel が鋭く伸び、ジャーニーを2馬身半切って捨ててのGⅠ戦初勝利です。中団グループの最後尾に付けていた去年の覇者で4番人気(71対10、今期は4戦して未勝利)のレフト・ハンド Left Hand が3馬身差の3着。

勝ったバティールは、フランシス=アンリ・グラファール厩舎、ピエール=シャルル・ブードー騎乗の5歳馬。前々走ピナクル・ステークス(GⅢ)、前走ドーヴィルのポモヌ賞(GⅡ)と3連勝で、G戦もハットトリック。牝馬の2400メートル路線で頂点に立ち、凱旋門賞を目指すのでしょうか。レース後のコメントが未着ですので、今後の事は判りません。

続いてもGⅠ戦。こちらは凱旋門ウィークのトライアルではありませんが、今年のマイル・チャンピオンを決定する重要な一戦のムーラン・ド・ロンシャン賞 Prix du Moulin de Longchamp (GⅠ、3歳上牡牝、1600メートル)。1頭が取り消して7頭立てとなり、前走敗れたりとは言えGⅠ戦3勝のリブチェスター Ribchester がイーヴンの1番人気。ゴドルフィンはペースメーカーを出走させて準備万端です。
そのペースメーカー、6番人気(148対10)のロビン・オブ・ナヴァン Robin Of Navan が逃げ、リブチェスターは2番手で何時でも抜け出せる構え。直線、ペースメーカーが仕事を終えると、大本命は一旦は先行から追う2番人気(4対1)のターリーフ Taareef に迫られはしたものの、再び突き放して4分の3差で人気に応えました。同じく先行から伸びた5番人気(91対10)のマサート Massaat が3馬身半差で3着。

ゴドルフィンのエース、リブチェスターはリチャード・ファヘイ厩舎、ジェームス・ドイル騎乗。4歳の今期はロッキンジ、クイーン・アンとマイルのGⅠ戦を2連勝して頂点に立ったかに見えましたが、前走サセックス・ステークス(GⅠ)は3歳牝馬ウインター Winter の後塵を拝してまさかの2着。そのウインターは土曜日のマトロン・ステークスで2着に敗れましたから、未だ今年の最強マイラーは決定したとは言えません。最終決着はアスコットのクイーン・エリザベス2世ステークスに持ち越されるのは間違いありませんネ。尤もウインターは凱旋門賞、という選択肢もあるようで、リブチェスターにはチャンスかも。

お待ちかねのフォア賞 Prix Foy (GⅡ、4歳上牡牝、2400メートル)。かつてオルフェーヴルが2連覇していますが、ここから凱旋門賞を制したのは何十年も出ていないマイナーなトライアル。果たして今年は、ということで出走馬は6頭。日本から参戦した2頭、特にサトノダイヤモンドが気になりますが、人気は19対10の2番目。17対10で1番人気に支持されたのは、今期3戦3勝のクロース・オブ・スターズ Cloth Of Stars でした。3連勝と言っても5月のガネー賞(GⅠ)以来の実戦、ここはあくまでも凱旋門賞「トライアル」です。
里のダイアモンドのペースメーカーとして遠征しているサトノノブレス(31対1、最低人気)が予定通りレースを引っ張り、ダイアモンドは2番手追走。直線、ダイアモンドが寮馬を交わして先頭に立ったのも束の間、先行していた4番人気(54対10)のジンギス・シークレット Dschingis Secret が日本の期待を一飲みすると、後方から追い込むクロース・オブ・スターズに1馬身半差を付けて快勝。同じく後方待機の5番人気(193対10)タリスマニック Talismanic が首差の3着に入り、里のダイアモンドは更に1馬身4分の3差置かれての4着に終わりました。その敗因はいずれ池江師のコメントが報道されると思いますが、やはり初体験の重馬場でしょうか。本番までに馬場が回復する保証はありません。

さて勝ったジンギス・シークレットは、名前の通りマーカス・クルーグ師が管理し、アンドリー・ド・ヴリースが騎乗したドイツの4歳馬。去年のドイツ・ダービー(GⅠ)3着馬で、イタリア・セントレジャーを制しています。今期は地元ドイツでグロッサー・ハンザ・プライス(GⅡ)と前走ベルリン大賞典(GⅠ)に優勝しており3連勝。明らかに力を付けており、得意の重馬場で凱旋門賞大駈けの期待もありそう。
ここは格の違いを見せ付ける筈だった日本馬にとっては苦しい流れになったようです。

一連のトライアルの最後は、カドラン賞(GⅠ)の試走となるグラディアトゥール賞 Prix Gladiateur (GⅢ、4歳上、3000メートル)。8頭が参戦しましたが、やはり去年の覇者で仏セントレジャーを2連覇しているヴァジラバド Vazirabad が9対10で1本被りの1番人気。
先ず4番人気(7対1)のニアリー・コート Nearly Caught が逃げ、6ハロン進んだ地点からは2番手に付けていた2番人気(56対10)のホールドタシグリーン Holdthasigreen が交わしての逃げ。中団で待機していた本命ヴァジラバドが徐々に差を詰め、ホールドタシグリーンとのマッチレースに持ち込むと、最後は4分の3馬身差を付けて見事2連覇達成です。3番手を進んだ最低人気(31対1)のトリップ・トゥー・ロードス Trip to Rhodos が7馬身の大差で3着。

アラン・ド・ロワイヤー=デュプレ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗、アガ・カーンのヴァジラバドは、5歳となった今期はドバイのゴールド・カップ(GⅠ)を制し、前走ヴィコンテス・ヴィジエ賞(GⅡ)も制して3連勝。フランス長距離界では最も安定して、最もタフな馬であることは間違いありません。カドラン賞から仏レジャー3連覇という道を歩むのでしょう。

 

 

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