神奈川フィル・第338回定期演奏会

長柄の音楽祭に通う期間中、合間の7日の土曜日に横浜みなとみらいホールで神奈フィルの4月定期を聴いてきました。新年度第1回のプログラムは、今年のアニヴァーサリー作曲家バーンスタインを特集した以下のもの。

バーンスタイン/スラヴァ!(政治的序曲)
バーンスタイン/「ウエスト・サイド・ストーリー」よりシンフォニック・ダンス
     ~休憩~
バーンスタイン/交響曲第1番「エレミア」
 指揮/川瀬賢太郎
 メゾソプラノ/福原寿美枝
 コンサートマスター/石田泰尚

3種類の定期シリーズを持つ神奈フィル、主食とも言えるみなとみらいシリーズは昭和45年(1970年)から続く歴史ある定期で、今年4月で338回を数えます。私も現・常任の川瀬が就任してからは度々聴いているオケで、時間と財政の調整が付けばもっと頻繁に聴きたいと考えているところ。生憎定期が土曜日に開催されることが多く、涙を呑んで断念した回もかなりありました。
今シーズンも魅力的なプログラムでそそられますが、やはり川瀬賢太郎の振る回に注目、4月も真っ先に聴きたい演奏会として発売と同時にチケットをゲットしたもの。期待通り、いやそれ以上の満足度を確認した次第です。

神奈川フィルはチラシに記載がなくともプレトークが行われることが多いようで、今回もそれを期待して早目に会場入り。予想通り同団の副指揮者を務める阿部未来と川瀬によるプレトークが行われました。
ここで語られたのは、川瀬のバーンスタインに対する思いと、今回のプログラミングの意図。もちろん川瀬本人はバーンスタインに会ったことは無いのですが、マエストロが創設したPMF音楽祭で3年間学んだことが川瀬の基礎にある、という重い事実があるとのこと。
今回の3曲も単にバーンスタインの有名曲を並べたというだけではなく、現在でも未だに続いている様々な問題に対する、バーンスタインの強いメッセージを内包した作品を取り上げる、ということでもあります。

最初の序曲、スラヴァには二つの意味があって、一つは作曲の切っ掛けでもある盟友ロストロポーヴィチの愛称。もう一つはロシア語の「栄光」。作品の終わりの方でアジ演説を収録したようなテープが再生されるので、「政治的」というタイトルが付けられそうな。ムソルグスキーのボリス・ゴドゥノフからの引用が出てくるのも、ロストロポーヴィチへのオマージュと「政治的」という暗示を引っ掛けたもの。最後にオケのメンバーが「スラヴァ」と叫んで終わります。

この掛け声、2曲目のウエスト・サイド・ストーリーでも、マンボの中で二度出てくるのはご存知の通り。掛け声繋がりという選曲でもありましょうか。川瀬が指揮する神奈川フィルは元気一杯、指揮者の若さがそのままストレートに客席に伝わってきました。その若さが年齢的な面だけでなく、精神的な若さにも通じているのが川瀬賢太郎の持ち味で、どんなコンサートでも独自の視点、新たな挑戦を意識させてくれるのが嬉しくもあり、楽しい所でもあります。

しかし今定期、最も感動的だったのが、後半のエレミア交響曲でしょう。プレトークでも紹介していたように、川瀬にとってメゾソプラノと言えば福原寿美枝。彼女とは名フィル定期でもエレミアを共演しており、今回も涙を浮かべながら熱唱する福原に圧倒されました。第1楽章「予言」では、神奈川フィルの弦楽セクションの優れたアンサンブルが聴かれ、オーケストラとして著しい進化を遂げていることが実感できます。

これだけで終わらないのが、川瀬賢太郎と神奈川フィル。何度目かのカーテンコールの後、マイクを持って登場した川瀬が客席に呼びかけます。“私も出番でない時には聴衆の一人として演奏会に出掛けます。シンフォニック・ダンスでマンボに来ると、自分も一緒に叫んでみたくなりますが、皆さんもそう感じませんか?”
ということで川瀬ならではのアンコール。そのマンボを客席も一体となって叫ぼう、ということなのです。先ずは予習、ということで川瀬が口三味線でオケのパートを歌い、オケ全員が一斉に“マンボッ!!” と見本。これが裏方、客席にいる阿部副指揮者、更には石田コンマスにまで振って、最後に客席全員参加のリハーサル。そしてアンコール本番で指揮者が客席にキューを出し、見事に“マンボッ!!”が2回、バッチリ決まったのでした。

こういうサプライズあるので、川瀬/神奈川フィルは止められません。私は読者ではないので知りませんでしたが、音楽の友4月号で「あなたの好きな日本のオーケストラ」という企画があり、神奈川フィルは第4位に選ばれたそうな。第1位から3位までがどのオーケストラかは知りませんが、日本全体で4位と言うのは凄いこと。恐らく批評家や専門家の評価とはかなり違うのでしょう。快進撃を続ける神奈川フィル、このまま行けば何年か先には人気投票で第1位に選ばれてしまうかも。

 

 

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