日本フィル・第342回横浜定期演奏会

コントラバスのリサイタルを聴いてから少し間が空きましたが、11月のコンサート通い、24日の土曜日は横浜みなとみらいホールで日本フィル横浜定期を聴いてきました。2週前の東京定期を振ったラザレフ、先週は京都に浮気旅行をしていたようですが、今週はオーチャードの特別演奏会と横浜定期を次のプログラムで今回の日程を締め括っています。

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
     ~休憩~
プロコフィエフ/バレエ音楽「ロメオとジュリエット」(ラザレフ版)
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ヴァイオリン/小林美樹
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/菊地知也

なんだ、ロシア名曲プロじゃないかと言われそうですが、この2曲には興味深いテーマが満載。その辺りを奥田佳道氏のオーケストラ・ガイドが繙いてくれます。今回のガイドは、大半が前半のチャイコフスキーの初演に纏わる逸話に費やされていました。
曰く、チャイコフスキーがサラサーテやラロ作品に刺激されてヴァイオリン協奏曲にチャレンジしたこと。演奏を依頼したレオポルド・アウアーに演奏不可能のレッテルを貼られて拒否されたこと。それに対するアウアーの言い分(最近自伝が出版されたそうな)。初演が何とウィーン・フィルの定期で、あの楽友協会ホールでハンス・リヒターの指揮で行われたこと。初演でソロを弾いたロシア出身のブロツキーはウィーンで学び、ウィーン・フィルやヘルメスベルガー・クァルテットでも弾いていたこと。ハンスリックの有名な酷評、悪臭とは正確にはウォッカの香りがする、という意味だったこと等々が判り易く紹介されました。
ウオッカの臭いって、別に悪い意味だけじゃないじゃん。と、考えれば、ハンスリックはポイントをしっかり捉えていた、ということでもありますよね。

ラザレフの元でチャイコフスキーを披露した小林美樹は、鵠沼のリサイタルで接してからは単なるファンから熱烈ファンに転じたヴァイオリニスト。これまで日本フィル横浜でのコルンゴルト、神奈フィルとの北欧作品集でも聴いてきましたが、何れもみなとみらいホールでした。ラザレフとは初共演だと思いますが、猛将にも負けない堂々たるステージ姿で魅せます。
細部にまで亘っての入念なリハーサル、前日に続く二日目と言うこともあってか、チャイコフスキーは完璧でした。技術的にはもちろん、表現も安定し切っていて、ぶれる所がない。例えば第1楽章、展開部に突入する直前で音階を駆け上がり、オーケストラが全総で高らかに第1主題を歌い上げる個所。ソロの最後は、楽譜では8分音符一つで締め括るのですが、小林は身体を逸らせながら譜面の指定よりも長く、アップ・ボウで弾き上げる。そのカッコよさ。

ガイドで奥田氏が触れていたソロとオーケストラのヴァイオリンとのユニゾン。多分第1楽章のコーダ、ピウ・モッソに入ってから2度出てくるパッセージの事だと思いますが、ここもオーケストラの全総を突き抜けて小林のソロが明瞭に聴こえる。もちろんラザレフのバランス・コントロールが絶妙であったからこそで、舞い上がってしまいがちな指揮者ではオケがソロをかき消してしまう場面。ラザレフは協奏曲も振れる、本物の巨匠と言う証でもあります。
こういうところを見て欲しい、聴いて頂きたい。

第3楽章の第2テーマ、ポコ・メノ・モッソで歌われる節は、やり過ぎれば「悪臭」を放つメロディーでもありましょう。しかし小林/ラザレフはその手前で抑える。ウォッカを良く知るマエストロならではの呼吸が、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の真価を伝える名演へと昇華したのだと思慮しますが、どうでしょうか。
この見事なチャイコフスキー、第1楽章が終わった所で思わず拍手したくなるほどの出来栄えでした。指揮台のラザレフも客席を向いて二度ほど頷いていましたが、あれ、拍手しても良いんだぞ、という意思表示じゃなかったかしらね。英国のプロムスなら間違いなく大拍手と歓声が起こりそうなフィニッシュでしたが・・・。

全曲終了後の大声援は、小林の地元横浜だったからだけじゃないでしょう。アンコールはバッハの無伴奏パルティータ第3番から、最後の短いジーグ。

後半のプロコフィエフ。オーケストラ・ガイドでも触れられていたように、ラザレフのロメオとジュリエットは2011年3月11日の東京定期のメインでもありました(当日のライヴ音源がCD化されています)。私は震災の混乱で当日は行けず、翌日に振り替えて聴いたことを昨日のことのように思い出します。その時のレポートも記事にしました。あの定期、前半は今回と同じくヴァイオリン協奏曲でしたが、チャイコフスキーではなくストラヴィンスキー。しかし調性は同じ「ニ調」だったことは偶然でしょうか。
当時ラザレフは腰痛に悩んでいて、確か高めの椅子を使って指揮していました。二日目の公演が終了するや否や、次の公演地だった香港に飛び立ったとも聞いています。

ラザレフはあのあと、2012年10月の第281回横浜定期でもロメオとジュリエットを指揮していますが、腰痛も癒えての絶好調。その時の感想も書いていますので、こちらをご覧ください。6年後の今回もほぼ同じ印象。相変わらずのラザレフ・スタイルで横浜のファンを唸らせました。

日本フィル・第281回横浜定期演奏会

ラザレフはこの作品を日本で都合3回披露したことになりますが、全て同じ選曲、同じ曲順の「ラザレフ版」でした。ラザレフ版と言ってもマエストロがスコアに手を入れているわけではなく、第2組曲の全曲をほぼ曲順に演奏し(第6曲と第7曲は入れ替え)、第1組曲からは3曲を選んで全10曲の構成とする。最後は最も演奏効果の高い「ティボルトの死」で締め括るというもの。
最初にホールを揺るがせる第2組曲の第1曲「モンタギュー家とキャピュレット家」は、序奏に続いて重々しいリズムで始まる付点音符が続くマーチ。ロメオとジュリエットを代表する名場面ですが、バレエでは「騎士たちの踊り」と題されたシーン。スコアを見ると、この音楽はロシアの魂と呼べるホ短調で書かれているんですね。改めてラザレフの意図が何処にあるのか、我が意を得たりという感想も持った次第です。

オーケストラのアンコールは、同じプロコフィエフの古典交響曲から第3楽章のガヴォット。実はここにも隠し味があって、このガヴォットはロメオとジュリエットのバレエでも再利用されているんですね。第1幕の第18曲がそれですが、敢えてガヴォットをアンコールしたのは、ラザレフのウィットと解釈しましょう。やるなぁ~ラザちゃん。

最後に余談を一つ。今回のプログラム誌に掲載された楽器編成に笑える個所があるという指摘をある方から頂きましたが、良く良く見て行くとチャイコフスキーだけじゃなくプロコフィエフにも。タンブリンという活字に注目してください。「ふにてんてん」の一文字、ワープロを叩いてもこれは出てこない。どうやったんでしょうか?(笑)

ところで楽器編成というコーナーは中々に味のあるもので、今回の「ロメオとジュリエット」などは編集部が最も頭を悩ませるものの一つでしょう。ピースによって編成が区々だし、指揮者が選ぶ楽章によっても注意が必要。
そんなことを思いながらネット検索してみると、こんなサイトを見つけちゃいました。オーケストラのライブラリアンのためのサイトのようですが、このページの右下の柱「Nieweg Charts」の上から4番目をクリックしてみてください。ロメオとジュリエットの3つの組曲の楽器編成が、曲毎に一覧表になっています。PDFで見ることが出来ますので、我々素人だけでなく、専門家にも参考になるのではないでしょうか。他にも面白そうな内容がギッシリ、展覧会の絵のオーケストレーション一覧表など唖然としてしまいました。ほれ↓

http://www.orchestralibrary.com/

ということで、演奏会が終わった後もタップリ楽しませてもらった定期でした。

 

 

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