日本フィル・第347回横浜定期演奏会

振り返れば、5月はオーケストラの演奏会に4回も通ったのでもう終わり、と思っていましたが、未だ一つ残っていました。それが日本フィルの横浜定期。ラザレフの指揮で2回、もうお腹一杯状態でしたが、久し振りの飯守先生を聴き逃すわけにはいきません。
横浜定期らしい名曲が並んだコンサート。

ベートーヴェン/「レオノーレ」序曲第3番
シューマン/ピアノ協奏曲
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第5番
 指揮/飯守泰次郎
 ピアノ/上原彩子
 コンサートマスター/千葉清加

5月のオーケストラ・ガイドは、作曲家の齋藤弘美氏。この日のコンサートは埼玉定期に続く2日目で、翌日は杉並公会堂でも開催される由。齋藤氏は前日の埼玉も聴かれたそうで、オーケストラが実に良く鳴っていたという感想からスタート。
続いてベートーヴェンが歌劇「フィデリオ」に寄せた思い、レオノーレという女性への共感などが紹介されました。後半に登場するトランペットのファンファーレの意味も。
余りにも有名な第5交響曲は、最近ではナマ演奏に出掛けない人もおり、演奏機会も減っているという指摘。しかしナマで聴く第5は格別で、作曲家にとっても「第5交響曲」が大きなプレッシャーになっているとも。例の「ジャジャジャジャーン」が全体に使われており、特に第2楽章で何処に登場するかは、チョッと聴いただけでは判らないでしょう、とのこと。
最後はシューマンの話題で、ソリストの上原氏が如何に練習に励んできたかを紹介し、今は3人のお子さんの子育てで以前ほどは練習時間を掛けない、とのエピソードも。それでも一日5時間とか。最後はこの日の3曲の共通点ということで、どれも作曲者35歳ごろの作品、というのが正解だそうです。皆さんは35歳ごろ何をしてましたか、という問いかけがありましたが、私はそれこそ子育て真っ最中、仕事にも追われていて音楽どころじゃありませんでしたね。

ということで、ゆっくり名曲に浸りました。齋藤氏が言われるように、実にオーケストラが良く鳴っています。来年のベートーヴェン・イヤーではインキネンによるチクルスが予定されている日本フィルですが、今回はその予告編的存在。設立当初は敢えてドイツ音楽とは距離を置いていた日フィル、今やレパートリーの中核にあると言っても過言じゃないでしょう。そんなことも思ってしまう、飯守泰次郎との見事なベートーヴェンに大満足。
序曲・協奏曲・交響曲という王道プロ。3曲ともコンサートの常連で、改めて付け加えることもありませんが、簡単に回想しておきましょうか。

最初の序曲、全総の和音で始まりますが、低音が他より僅かに早く入ります。これはコントラバスがフライングしたわけではなく、ズシリとした響きが前面に出ることによって、作品の重厚さが腹に堪える。マエストロの確信犯的出だしでしょう。これこそが、我々の世代が長年楽しんできたドイツ音楽で、昨今流行の古楽器系演奏では失われてしまった感覚かも知れません。
演奏が終わって影吹きトランペット奏者を舞台に呼び寄せましたが、オットーではなく副首席の星野究でした。

シューマンは、チャイコフスキー・コンクール優勝でスターダムに駆け上った上原彩子のソロ。彼女を聴くのも久し振りでしたが、シューマンということもあって表に出すパッションは控えめ。抒情の勝った演奏でシューマンの魅力を惹き出します。
アンコールもシューマンから、「ウィーンの謝肉祭」の第4曲「間奏曲」を。

メインの第5交響曲。飯守マエストロではこれまで東京シティ・フィルとの二度に亘る全曲チクルスを聴いてきましたが、2000年チクルスではベーレンライター校訂の新版を使用したことが話題でした。この時私は当時開局して間もないミュージック・バードの衛星放送「クラシック7」でライヴ録音を聴いたものですが、これは後にCD化されて現在でも聴くことが出来ます。
このチクルスから10年後、2010年には重いベートーヴェン演奏を目指してマルケヴィッチ版での演奏にチャレンジしました。この時は私もオペラシティーに通って実体験しましたが、こちらもCDになって聴くことが出来る筈。

で、今回はどうだったかと言えば、基本はベーレンライター新版だったと思います。但し2000年の時と違って対抗配置は採用せず、奏法もピリオド系では一切ありません。後代の加筆は全て排し、繰り返しは忠実に実行。
特に印象的だったのは第1楽章再現部でのオーボエのカデンツで、古来の音符とは異なって最初のGを回転させて装飾するスタイル。私は新版スコアを見たことはありませんが、恐らくこのカデンツァについての新しい見解が記されているものと想像します。確かマエストロも最初のツィクルスの時にこの変更を加えていたと記憶しています。

特に素晴らしかったのは、第3楽章のトリオ部。バスからヴァイオリンへとフーガ風に駆け上がる速いパッセージが一糸乱れず、強いインパクトを持って聴き手に迫る。指揮者の意図とオケの気迫が見事に一致した瞬間でした。
交響曲に内蔵されているエネルギーが凄まじく、それを要所要所で開放していく。今年の9月で79歳を迎える飯守泰次郎、やはりドイツ音楽、ベートーヴェン演奏では日本の、いや世界の第一人者と呼ぶべきでしょう。間然として些かも緩むことのないベートーヴェンに手を汗を握ります。

マエストロは、白熱した耳を癒す優しさも用意してくれていました。シューベルトのロザムンデから間奏曲。久し振りにこの美しい世界に浸ることが出来ました。

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