強者弱者(67)

蟇の恋  晴れて風なき夜、蟇の恋する声を聞く。冬の日の長き寂寥に倦みつかれたる時、低くかすかなる声、そぞろに若き人の心をそゝる。山の手にありては、風なぎて暖き日、溝近き路の傍に昼もなほ其姿を見ることあり。           *******...

読売日響・第490回定期演奏会

漸く陽射しの戻った金曜日、読売日響の2月定期を聴いてきました。結論を先に書けば、これは真に面白く、我が国のマーラー演奏史に燦然と輝く一ページとなる名演だったと申せましょう。 正直に告白すれば、名曲シリーズの後半で煩いだけの演奏を聴かされてい...

強者弱者(66)

筍  筍市に上る。目黒近在にては市内割烹店の需めに応じ既に一月の始めより筍を掘る。地を卜し鍬を入れて巧みに掘り当つるを見るに長さ漸く三四寸なり。味美なりといふ可からず。  吹きすさぶ風寒けれども一味の暖さを覚ゆ。榛の梢漸く色づきて遠く鳶色に...

英国競馬1960(5)

50年前の英国競馬、最後にクラシック・レース以外の大レースも簡単に振り返っておきましょう。 先ず英国最大のチャンピオン決定戦であるキングジョージ6世・クイーン・エリザベス・ステークスは、伏兵アグレッサー Aggressor が大本命のプチッ...

N響・第1664回定期の放送

N響の1月定期はBS2で放送されたはずですが、録音予約リストに残っていませんでした。どうやら国会中継のために放送そのものが中止になったようですね。確認していませんが、昔から音楽番組は犠牲になる習慣でしたから別に驚きもしません。 で、この回は...

強者弱者(65)

涅槃会  十五日、釈迦涅槃会。人皆かすかなる記憶をたどりて幼時故郷の寺に見たる大聖涅槃の図を思い浮ぶる日なり。夢の如き恐怖の情、袖にすがりて図を指し、物みなの歎き悲める理由を問ひかへしたる祖母なる人の俤、追想又追想、暖日南窓、白昼の夢悠々と...

強者弱者(64)

屋上の菜の花  チュリップの芽出づ。  碎米菜の新芽は秋に出でて小春に生ひ、霜に傲りて此頃に至り、寒風の中に繁殖す。  市内屋上の庭園に菜の花の莟かたきを見る。菜の花は萬頃の野に咲き出てよく、一梗、鉢に移し植えて情趣更に深し。紅塵堆裡に没し...

読売日響・第523回名曲シリーズ

2月の読響は、4年振りとなる巨漢セゲルスタムの登場です。既に池袋と横浜でオール・シベリウス・プログラムを振り、昨夜と今夜行われるプロが二つ目。最後は定期でのマーラーという内容。 私の名曲シリーズ会員は今シーズン一杯ですから残り2回。何度曲目...

強者弱者(63)

浅春の野花  春寒料峭たり。立春以後日漸く暖かなれど風弥よ寒し。野に鍬形草の花を見る。大さ、米粒ばかり。五弁にして白に浅黄の縁を染め、情調わすれな草に似たり。此頃より水近き小径のほとりに咲き出でて初夏の候に及ぶ。鍬形草と前後して薺の花咲く。...

“ちかしオーケストラ”を聴く

昨日は池袋の東京芸術劇場で“ちかしオーケストラ”のファイナル・コンサートを聴いてきました。不勉強ながら、その名前も初めて聞いたオーケストラです。 “ちかし”とは、NHK交響楽団のコンサートマス...

強者弱者(62)

紀元節  十日 毎年此頃より日本橋十軒店に雛の陳列を見る。近年に至り著名の呉服店皆競うて之を陳列す。野外の梅未だ咲かず。室咲きの桃早く市に上りて人皆春の楽しみを思ふ。  朧梅咲く。酒肆皆白酒を売る。  十一日 紀元節、日曜よりかけて春を湘南...

メット新演出のカルメン

3週連続でメットライブビューイングを観戦してきました。今シーズンの第6作、私は4本目でした。 出し物がカルメン、豪華キャストによる公演とあって、109シネマズ川崎は大入りでした。 映画は後方の席から売れて行きますが、この日は最前列であるA列...